戦間期を繊細に美しく~映画「婚約者の友人」 [映画時評]
戦間期を繊細に美しく~映画「婚約者の友人」
1919年、戦間期のドイツが主な舞台。第一次大戦でフランスと壮絶な西部戦線を戦い、国民感情は荒みきっている。そんな中、身寄りのないアンナ(バウラ・ベーア)は戦場に散った婚約者フランツ(アントン・フォン・ルケ)の両親と暮らしている。ある日、フランツの墓を一人のフランス人が訪れた。彼はパリ留学中のフランツと交流があったという…。
この作品の惹句は「ミステリー」とか「サスペンス」とかの言葉で語られることが多い。しかし、観る限りそれは違っているように思う。全編、モノクロとカラーの映像が交錯する。その変化は、登場人物の微細な心理の変化を物語っているようだ。特にモノクロの映像は美しく繊細である。この味わいをかつて観た映画でいえば、成瀬巳喜男の「乱れる」(1964年)に近いと思われるが、もちろん異論はあるだろう。
全編通してのテーマは「嘘」とは何か、嘘をつくことは罪なのか、ということである。フランツの墓を訪れたフランス人アドリアン(ピエール・ニネ)も嘘をついていた。そのことの罪悪感から、アドリアンは真実を告げる。語ったのは戦場の壮絶な体験だった。明かされたアンナはしかし、それをフランツの両親に告げられない。伝言ゲームのように嘘と真実がそれぞれの胸に去来するが、最終的にアンナは真実を自らの胸に収める。
ラストシーンは謎に満ちている。生前のフランツがよく見ていたというルーブル美術館のマネ「自殺」という絵の前でアドリアンと待ち合わせたアンナは絵を見ながら「生きる希望が湧いてきた」と話す。嘘も真実も自らの胸に収めた彼女は、果たしてこの絵の前で真実を話したのだろうか。そして、「自殺」という絵は本当に真実を描いたものだろうか。
とにかく繊細で美しい。戦争の傷、ナショナリズム、愛情と憎悪と悲しみ、それらが丹念に描かれている。2016年、仏独合作。フランソワ・オゾン監督の手腕が光る名品。
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