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中道+左の新党は作れるか~社会時評 [社会時評]

中道+左の新党は作れるか~社会時評

 

◇衆院選結果をどう受け止める

A)一時は、政権交代もありうるかといわれた衆院選。終わってみれば大山鳴動ネズミ一匹、自公で3分の2以上を占めて政権継続という結果になった。希望の党は当初100150議席という予測もあったが、結局50にとどまった。このうち45は民進党出身者で、純粋に希望の党から出て当選したのはわずか一人、それも比例復活だった。

B)こうした中で目立ったのは立憲民主党の躍進だった。公示前の16から54議席に伸びた。その分析はあとでしてみたい。

C)自民は比例区で33%の得票率だったが議席占有率は6割超と、相変わらず勝者のバイアスがかかっていた。衆院選直後(102324日)に朝日新聞が世論調査を行い、自公3分の2超の結果は「多すぎる」が51%、「ちょうどよい」が31%だった。同時期に読売も同趣旨の調査を行い、年代別の受け止め方を報じた。それによると、1829歳は6割以上が「よかった」と受け止めている。すべての年代では「よかった」が48%で、朝日の調査より肯定的評価が高い。おそらく、調査主体を見て反応が変わったのだろう。

A)1829歳は、物心ついたときには小選挙区制で、特に10代は小選挙区制以前をまったく知らない。そうしたことも影響しているのでは。総じて若者層の安倍政権に対する抵抗感のなさも目立つ。おそらく、民主党政権と安倍政権の二つしか比較対象がないためだろう。冷戦期から半世紀近く政治を見てきた60歳代が安倍政権に強い抵抗感を持つのとは、大きく違っている。

B)投票動向と議席占有率のギャップという問題も大きいが、いったい何を問うた選挙で、有権者はどういう意思を示したのかが、選挙を終わっても判然としない。この選挙は何だったのか。

A)強いて言えば、安倍政治の5年間を問う選挙だったといえる。

C)解散を表明した9月25日の会見で安倍晋三首相は、消費税の使い道を変更することを国民に問うといったが、このテーマはいつの間にか吹き飛んだ。国会で何の議論もせずいきなり「こう変えたいがどうか」と問うのも変だ。対北朝鮮も国民に問うと言ったが、何を問うたのだろうか。

B)たとえばかつての解散・総選挙を振り返るとき、「吉田茂政権の実績を問う選挙だった」とか「佐藤栄作政権の実績を問う選挙だった」といっても、後世の人間にはちんぷんかんぷんだ。これと同じことがいま行われた。

A)国難突破解散といっておきながら、選挙後の特別国会を臨時国会に切り替えて国難突破の対処法を議論することもしない。結局、まともな国会審議は来年の通常国会まで半年間見送りだ。「今なら勝てる解散」といい、あまりにも身勝手というほかない。

 

◇立憲民主の「躍進」の意味

A)フォーカスがどこにあるか、まるで見えない選挙だったが、唯一その中で実像らしきものが見えたのが立憲民主党だった。

B)先ほどの「安倍政治を問う選挙」という位置づけが一定の有効性を持つとすれば、安倍政治への是非について唯一、有権者に届く選択肢を示すことができたのが立憲民主だったといえる。そのほかの党は、希望の党を含めてそれができなかった。「排除の論理」が希望の党を失速させたという見方がメディアで大手を振っているが、違うのではないか。端的に、希望の党の立ち位置は有権者の心に届かなかったのだと思う。

A)そこをもう少し詳しく。

B)今回、自民は比例33.28%で、前回衆院選より微増だ。一方、先ほどの朝日世論調査では、安倍首相の進める政策に「不安」が54%、「期待」が29%だった。首相を「続けてほしい」は37%、「そうは思わない」が47%だ。つまり、政権は自民でもいい(あるいは「仕方ない」)が、安倍首相は政策に不安があるから代わってほしいと思っている人達が結構いる。では、どのあたりに不安を持っているのか。一つは、国会内の手続きを無視した強引な軍国主義化路線(安保法制、共謀罪、特定秘密保護法…)、もう一つは大企業を優遇すれば中小企業まで潤うというトリクルダウン路線。この経済路線は企業の内部留保を増やすだけ、ということは既に明らかで破たんしている。それから、「この人たち」発言に見られる上から目線の政治。これらをきちんと批判したのが立憲民主党だった。憲法無視の国会運営には立憲主義の旗を立て、大企業優先の新自由主義路線には「お互いさま」精神、弱者を助ける、という旗を立て、上から目線には草の根民主主義。枝野幸男代表は選挙期間中「あなたたちがつくった党だ」といっていた。立憲民主の政策は奇をてらったものではなく、枝野氏の言い方をそのまま使えば、いずれも「まっとうな」ものだった。

C)気がついてみれば今の永田町、どの党もトップダウン型になっている。安倍自民党、公明、共産…。そして希望の党も小池代表のトップダウン型だということが見えてしまった。そうではない政治を有権者は求めているはずなのに。

A)安倍自民党への批判として、根幹にあるのは実は過度な対米重視路線だと思う。この点は立憲民主も前面には出していなかった。今度、どういう立ち位置で臨むか。今の日本が抱える問題の大きなものは原発と沖縄だと思うが、この二つを解決するには対米従属路線の変更が必要だ。

 

◇3:5:2の分布図~希望の党はなぜ失速したか

A)1026日付朝日「論壇時評」で小熊英二氏が「総選挙の構図」を分析していて、安倍首相周辺が「日本人は右が3割、左が2割、中道5割」と語ったと紹介している。そこから選挙の構図を分析しているのだが、興味深かった。今の日本は有権者が約1億人だから、右(自公)が3000万人、左(リベラル、共産)が2000万人、あとは無党派の5000万人。多少の凸凹はあるにしても、今回の選挙の投票率は50%強だから、右と左は投票に行ったが中道はほぼ棄権に回ったと見ることができる。その結果、小選挙区効果で自公の圧勝に結び付いた。無党派が棄権に回る限り「左」は「右」に負け続けるが、民主党政権ができた時は無党派のうちの2000万人が反自民に回って政権交代を起こした。

B)カギを握るのは中道の5割だ。

A)中道の5割に網をかけるような新党を作れば自公の3割を凌駕できると考えたのが、希望の党だった。そこで「リベラル切り」をしても勝算があると考えたが、これが誤算だった。自公の3割、リベラルの2割に対抗して中道が勝つためにはさらに3割以上の投票が必要になる。合わせて8割以上だ。民主党政権ができた時でも投票率は69%だった。つまり、中道だけで政権交代を起こすというのは幻だというのが小熊氏の分析だ。

C)「排除」とか「さらさら」とかの言葉が希望の党の失速を招いたというのは、たしかに一つのきっかけではあったかもしれないが、本質的な議論には結び付かない。やはり、リベラルを含めた層と中道を結び付ける形で新たな政治勢力を作り上げないと、政権交代はむつかしいのではないか。ここで問題になるのは共産党の存在だ。リベラルを個人主義に基づく自由主義と定義すれば、共産は、厳密な意味ではリベラルには入らない。できれば「共産」の看板を外してもう少し緩やかな党になれば、中道+リベラルの塊を作りやすいのだろうが…。

B)小選挙区制度を導入して20年以上たった。それなのに、この選挙制度にとって必須といわれる2大政党制が作られていないという事実は、この制度の是非を問ううえで一つの解答が示されているような気もする。

C)では、かつての中選挙区制に戻すかといえば、これは政権交代自体を否定することになりかねない。悩ましいところだ。石にかじりついてでも政権交代を果たすしかないのでは。


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