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重厚で安定した映像美~映画「追憶」 [映画時評]

重厚で安定した映像美~映画「追憶」

 

 「駅 STATION」や「夜叉」「あなたへ」で高倉健を主役に、日本的な味わいの映像美を追求してきた降旗康男監督が、岡田准一を主役に据えて撮った新たな「降旗ドラマ」である。木村大作を映像監督に起用、日本海に沈む夕陽と北アルプスの山塊がドラマに奥行きを与える。

 海辺のスナック「ゆきわりそう」は、家庭の温かみを知らない三人のこどもたちにとって、つかの間の和みを共有する場であった。しかし、店を取り仕切っていた涼子(安藤サクラ)を訪ねてきた刑務所帰りの元やくざが平穏を乱し、三人はその男を殺してしまう。涼子は罪をひとり背負うことを決め、三人にその場の出来事を「忘れる」ことを約束させる。

 25年後、三人のうちの一人四方篤(岡田准一)は刑事になっていた。ある日、殺人事件の被害者があの時の一人、川端悟(柄本祐)であることを知る。経営する会社が傾き、金策の最中だった。捜査するうち、悟は何度か、土建屋を営む田所啓太(小栗旬)から金を渡されていたことを知る。田所も、あの時の三人のうちの一人である。事件をネタに悟がゆすっていたのではないか…。自らの出自に潜む秘密と刑事としての倫理のはざまで揺れる篤。「事件」を背負って自首し、刑務所内で元やくざの子を産んだ涼子は今どこに。調べていくうち、涼子の子が田所の妻であることを知る。

 涼子はある事故によって車いす生活を強いられ、認知症のため記憶もなくしていた。そんな涼子を篤は訪ねる…。

 幼少期の事件を心の中に抱え、その後ある事件の刑事、被害者、容疑者として再会するという展開はC・イーストウッド監督「ミスティック・リバー」を思わせる。そこに日本海の冬の波と夕陽、北アルプスの雪山が物語のフレームとしてかぶせられれば、「駅」や「夜叉」と並ぶ日本的映像美の極致ともなる。印象的なのは夕陽を背にした涼子が青いセーターを着ているシーン。青はスペインでは誠実の色とされ、聖母マリアが青をまとっていることで知られる。夕陽と青が、涼子をマリアに昇華させるのである。こうした映像美とともに、岡田准一、安藤サクラの重厚で安定した演技が光る。

追憶.jpg


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