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無人兵器の非倫理性を問う~映画「アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場」 [映画時評]

無人兵器の非倫理性を問う~
映画「アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場」

 

 米国は、かつてのように圧倒的な軍事力で世界を制圧できなくなっている。特に、米ソ冷戦が終結しテロリスト勢力との非対称戦を迫られるようになってその傾向が強まった。そのため、無人攻撃機を多用しようという機運が高まっている。しかし、こうした軍事戦術には批判も多い。自身を安全地帯に置きながら機械(ロボット)によって敵を殺害することの非倫理性【注】。そして、誤爆によって一般市民を巻き込み犠牲にするケースが避けられないことなどによる。しかし、無人攻撃機による戦争は確実に広がりを見せている。

 こうした現代の戦争を描いたのが「アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場」である。舞台はアフリカ、ケニアのナイロビ。しかし、指揮を執る人間はそこにはいない。「現場」があるだけだ。ロンドンと米ネヴァダに映し出されるモニターを確認しながら命令と実行が行われる。

 ナイロビの一角にソマリアから流れてきたイスラム過激派アル・シャバブが潜むことを突き止めた英軍諜報機関のキャサリン・パウエル大佐(ヘレン・ミレン)は、フランク・ベンソン国防相(アラン・リックマン)とともに、上空6000㍍にいる米無人攻撃機を使って米英統合による捕獲作戦を遂行しようとする。ところが、攻撃目標の近くにパンを売る現地の少女がいることが分かる。さらに、標的の家屋内では若者二人による自爆テロの準備が進められていることが判明する。

 無人兵器による攻撃を猶予すれば、自爆テロは実行されるだろう。その結果、80人もの犠牲者が出ることが予測された。しかし、そのために少女を見殺しにできるのか。攻撃を延ばせば、準備の確証をつかみながら、自爆を阻止できなかったと世界は非難するだろう。ミサイル攻撃によって少女を殺せば、やはり世界は非難するだろう。特に、テロリストたちには格好の宣伝材料になるだろう…。

 最後にはテロリストも殺害し少女も救われた、などというハッピーエンドの甘いお話ではない。戦争とは何か、戦争が根源的に持つ非人間性、そしてそれを増幅させる無人攻撃機の存在。「ハート・ロッカー」や「ゼロ・ダーク・サーティ」と並ぶ、現代の戦争を告発した秀作だ。2015年、英国製作。

 

【注】世界史を見ると、戦争は第一次大戦直後を除いて違法化されていない。これは、対話による問題解決が困難になった場合に限り、敵対する関係国が兵を出し合って暴力的に戦い、その結果をもってどちらが服従するか結論を得る「決闘の論理」に依拠しているためと思われる。その場合、兵士は制服によって所属国を明確にする必要があり、原則として市民を巻き込まないことが求められる。しかし、ゲリラによる非対称戦が「普通の戦争」になった現在、こうした思想は崩れつつある。その場合、それでも戦争を人間でなく機械に代用させることは倫理的な問題にならないのか。これは現代の戦争の是非をめぐる大きな命題と思われる。

空の目.jpg

 


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