母と子の変わらぬ想い~映画「山河ノスタルジア」 [映画時評]
母と子の変わらぬ想い~映画「山河ノスタルジア」
四つの事件をオムニバス風に描いた「罪の手ざわり」のジャ・ジャンクー(賈樟柯)監督による新作。主要な舞台を、監督の生まれ故郷である山西省の汾陽に設定したことからもわかるように、監督自身の故郷への思いが、全編の色調に込められている。昨年11月のインタビューで監督が作品を振り返り、母から鍵を渡されたエピソードに触れているが、ここには長い漂泊の末になお断ちがたい故郷と肉親への思いがひそめられている。このエピソードはそのまま、映画の中でも使われている。
1999年。汾陽で小学校教師として働くタオ(趙濤)は幼馴染のリャンズー(梁景東)とジンシェン(張譚)の二人から思いを寄せられる。結局、実業家の道を歩み始めたジンシェンとの結婚を選び、炭鉱労働者だったリャンズーは故郷を捨てる。しかし、貧困の中で病を得てリャンズーは舞い戻る。
2014年。タオはジンシェンと離婚、息子のダオラーとも別れ、汾陽で一人暮らす。タオは父の葬儀でダオラーを呼び戻し、ジンシェンとともにオーストラリアで暮らすことを知る。
2025年。オーストラリアで父と暮らすダオラーは、心のどこかで母の記憶を探り始める。そして、父とも離別する。
故郷への思いを募らせるダオラーに、中国語教師のミアは「時間がすべてを変えるわけじゃない」という。壮大な叙事詩の中で、監督が言いたかったのはこのことであろう。変わるものもあれば変わらぬものもある。それを信じればこそ、人は生きていける。母は、きっと中国の片隅で、私の帰郷を待っていてくれる…。
「罪の手ざわり」の、暴力的なまでの切れ味のよさはここにはない。そのかわり、夕暮れどきのような甘い時間の流れがある。ラストの、タオの表情がとてもいい。
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