SSブログ

本土の「理不尽」を告発する~濫読日記 [濫読日記]

本土の「理不尽」を告発する~濫読日記

「沖縄は『不正義』を問う」(琉球新報社論説委員会)

沖縄不正義.jpg 日陰にいると日向にいる人間の素振りが見えるが、日向にいる身には日陰の人間の行動が見えない、という。沖縄はいま、国内全体の0.6%の領土に73.8%の米軍専用基地を抱える。そのうえ、「世界一危険」といわれる普天間飛行場の撤去という名目で辺野古新基地建設が進められている。沖縄はこれまでも、1972年の返還まで、日本でも米国でもなく、両国の憲法の庇護のもとにない状況に置かれた。さらには戦時中、日本国内で唯一の「決戦場」となり、「軍は民を守らない」という究極の国家の振る舞いを見せつけられた。そうした「日陰」に置かれた身であるからこそ、米国だけでなく日本本土の理不尽さが手に取るように分かるのであろう。
 2014年と翌15年の、折に触れての特別評論と「沖縄」をめぐる社説を集めた。読んで気づくのは、「民意」という言葉の多用である。もちろん各種選挙の結果を踏まえるという意味合いであろうが、ここではもっと重く伝わってくる。背後にいる「民衆」の実体そのものがこの言葉には込められている、という気がするためである。
 もちろん、本土でも「民意」や「民衆」は使われる。しかし、沖縄ほどの切迫性をもって使われているだろうか。一方で皮肉なことに、今の沖縄には、「中国の脅威に対抗する抑止力としての米軍基地の必要性」という政権の論理建てとは裏腹に中国、台湾をはじめとするアジア各国の観光客が押し寄せている。戦争のためのカナメ石ではなく、アジアの平和のカナメ石としての重みを増しつつある。国家権力に抵抗し、米国の「基地帝国主義」にも屈することなくアジアに開かれた島をめざす。これは一言でいえば「民の論理」であり「民衆の意思」でもあろう。
 それを背景に書かれた「論」であるから、いずれも、驚くほどシンプルで強い。安倍晋三首相は安保関連法を「国家と国民を守る」というが、松元剛氏の特別評論では、日本が他国を攻撃すれば、真っ先に攻撃されるのは米軍専用基地の74%が集中する沖縄。政府は再び沖縄を「捨て石」にするのか、と批判する。もちろん、ここにはかつて、日本軍がわが身を延命させるため(本土決戦を長引かせるため)、沖縄県民を盾にしたという歴史的教訓がある。強いられた「共死」の体験である。単なる「論」ではなく実体験に基づく訴えであるから強いのだ。そのうえで、民意の支持なき辺野古移設は実現不可能だと説く。米軍機事故が起きれば、日本側が口出しできないのは日米地位協定があるからだとし、主権国家であるなら協定の抜本改定を、と訴える。
 「ワシントン拡声器」という言葉が紹介されていた。なるほどと思う。日本政府がやりたいと思っていても沖縄の抵抗が予想される場合、米国のJAPANハンドラーに根回しをして対日要求として言わせ、「米国が言っているから」と無理筋を通してしまう。本土の人々は「米国が言っているのなら」となんとなく納得してしまう。逆に「減衰器」として機能する場合もあるという。こうした中で沖縄の民衆は地べたを這い、抵抗する。それを沖縄メディアが伝える。
 菅義偉官房長官が、翁長雄志知事による埋め立て承認取り消しに対して「我が国は法治国家」といったのに対抗し「人治国家」と切り返す。その舌鋒の鋭さは、背後にいる民衆の実像を信じていればこそであろう。翻って見れば、民の論理を忘れた本土メディアのなんと多いことか。


「沖縄は『不正義』を問う」は高文研、1600円(税別)。初版第1刷は2016215日。琉球新報社は1893年、沖縄発の新聞として創刊。1940年、戦時統合で「沖縄新報」に。1951年のサンフランシスコ講和条約を機に題字「琉球新報」が復活した。沖縄タイムスと2紙で県内シェア8割を超すといわれる。


沖縄は「不正義」を問う

沖縄は「不正義」を問う

  • 作者: 琉球新報社論説委員会 編著
  • 出版社/メーカー: 高文研
  • 発売日: 2016/02/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)





タグ:沖縄
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0