畏怖すべき自然~映画「レヴェナント:蘇えりし者」 [映画時評]
畏怖すべき自然~映画「レヴェナント:蘇えりし者」
アメリカの西部開拓史が1848年のカリフォルニアでの金鉱脈発見に始まるとしたら、この映画の時代設定は1820年代だから、西部開拓前史にあたるといえよう。狩猟で得た毛皮を売って生計を立てる一団がいた。ネイティブ・アメリカンに襲われ、生き残った10人が船で逃亡、途中から陸路で山を越え、砦へと向かう。ガイド役の猟師ヒュー・グラス(レオナルド・デカプリオ)は子連れのクマに襲われ、瀕死の重傷を負う。一行は急ごしらえの担架で山を越えようとするが、道が急峻になるにつれ、グラスは足手まといになる。
このままではネイティブ・アメリカンに追いつかれると憂慮した隊長のアンドリュー・ヘンリー(ドーナル・グリーソン)は、グラスの最期を見届けるものを募る。そしてグラスの息子ホーク(フォレスト・グッドラック)とジョン・フィッツジェラルド(トム・ハーディ)、ジム・ブリッジャー(ウィル・ポールター)が残る。ジョンはグラスの殺害を図り、見とがめたホークを殺してしまう。グラスを埋葬用の穴に放置し、砦へと向かう―。
ここからはグラスのサバイバルゲームが始まる。クマに襲われるシーンと、その後の、生き残るために何でもするというシーンの連続は壮絶で、見ごたえがある。この先は、サバイバルとリベンジの物語になるが、言い換えれば、その先に見える物語がない、ともいえる。
この種のサバイバルゲームといえば「ランボー」の第1作を思い出すが、そこにはベトナム戦争で「殺人マシーン」に作り上げられ、市民社会になじめない兵士の悲しみがにじんでいた。この「レヴェナント」にはそれがない。
ストーリー性に不満はあるが、雪山や渓谷の自然美をとらえたカメラワークは見事である。しかし、それらがいったん牙をむくと(クマも自然の一部である)、濁流であったり、酷寒であったり、凶暴であったりする。美しい自然は時として人間に畏敬と畏怖を強いるのである。そうした側面からは、この映画は評価に値するかもしれない。
監督は「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ。実在の猟師の体験記を基にしたという。同じ原作で「荒野に生きる」(1971)がある。
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