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虚実の荒波の中で~映画「リップヴァンウィンクルの花嫁」 [映画時評]

虚実の荒波の中で~映画「リップヴァンウィンクルの花嫁」


 「リップヴァンウィンクル」は1820年に米で発表された短編小説。ある男が森へ入り込み、出会った男の誘いのままに酒盛りを始め、ついつい寝込んで気づいたら20年がたっていた、という浦島太郎のような話。
 映画も、人生のまどろみのような時間を過ごしていた女性が、ある日覚醒し自立していく話、といってしまえば身もふたもない。そこで、別の表現をすれば、実と思っていた生活が虚に満ち満ちており、虚の世界と思っていたものが実に満ちていた、という話でもある。その中で、生きる手ごたえのようなものをつかんでいく。
 東京で非常勤教員である七海(黒木華)はSNSで知り合った鉄也(地曳豪)と結婚する。彼女はツイッターで「あっけなく」相手を手に入れたとつぶやく。結婚式に親族が少ないことを気にかけ、何でも屋の安室(綾野剛)に代理親族の調達を依頼する。すべてはお手軽に、それなりの新婚生活がスタートする。しかし、お手軽であるだけに、部屋の片隅に落ちていたピアスを巡って募った七海の不信がアリの一穴となり、生活は一気に破たんする…。
 結局、濡れ衣を着せられて離婚させられた七海は傷心の再スタートを切る。そんなとき、真白(Cocco)と出会う。二人は妙に気が合い共同生活を始めるが、真白には破滅的な浪費癖があった。AV女優で生計を立てていたが、健康がすぐれず日に日に痩せていく。しかし、七海はそうした虚飾に満ちた生活の中に何かを感じ取っていく。
 自分の居場所さえつかめなかった七海が、虚実の荒波の中で違った表情を見せていく。おそらく、黒木華という女優がいればこそ成り立つ映画であろう。そして監督・岩井俊二の美学がスクリーンにあふれた映画でもある。「美学」を優先するあまり、若干の説明不足が生じているのが気がかりだが。例えば、新婚生活の中で鉄也の不倫は実際にあったのかなかったのか。安室には、七海に対する「下心」はあったのかなかったのか。しかし、そんなことにこだわるのは岩井美学に反するというものだろう。
 3時間は長い気もするが、確実に年間ベスト10に入る秀作。

 
リップヴァン.jpg



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