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テレビにバランスは必要か~濫読日記 [濫読日記]

テレビにバランスは必要か~濫読日記


 

 「テレビ現場からの告発! 安倍政治と言論統制」(「週刊金曜日」編)

安倍政治と言論統制.jpg 2016年春、テレビ各局の報道番組が変わりつつある。「NEWS23」は膳場貴子キャスターが土曜夕の報道特集に移り、アンカーマンだった岸井成格は降板、新たに星浩・元朝日新聞記者がメーンキャスターに。「報道ステーション」は古館伊知郎キャスターが降板し、局アナが後を埋める。いまやNHKで数少ない良心的番組といわれる「クローズアップ現代」は午後7時半から10時開始に移り、国谷裕子キャスターは契約打ち切りで後は局アナ7人が交代制で引き継ぐ。

 報道番組を巡っては昨年もひと悶着あった。報ステのコメンテーターだった古賀茂明が降板した際、最後に「官邸の圧力」と言明し、古館が大慌てでとりなした。クロ現の出家詐欺をめぐる番組では「やらせ」があったとされ、テレ朝とNHKが自民党調査会によって事情聴取されるという前代未聞の事態に発展した。

 こうした報道の変質と2月8、9日にあった高市早苗総務相の、電波停止を否定しない答弁は無縁ではないだろう。

 安倍晋三政権は、このぐらいのことで報道は委縮するのかというが、そういう問題ではない。「電波停止」が現実にあるとしたら、あえてそれでも政権批判をするのか、それとも一歩引きさがって「報道する権利=国民の知る権利」を守るほうが市民のためなのかは当然、メディアの側は考える。そこは時に応じて柔軟に対応すべきで、リスク回避の手法も一概に否定されるべきではない。しかし、それが積もり積もれば報道の変質となり、読者や視聴者へのミスリードになりかねない。「委縮」より、本当に怖いのは「忖度」である。報道する権利、知る権利を守るためと称して、政権の発表を無批判に流すことに鈍感になってしまうこと、それが怖いのである。

 高市答弁では放送法第4条の「政治的公平」が引用された。政治的公平とは何か。機械的に賛否両論を並べれば「公平」になるのか。そうではないのか。それは誰が判断するのか。そうした議論を積み重ねないとこの問題は軽々に語れない。別の視点でいえば「電波停止」は電波法に書かれ、「政治的公平」は放送法に書かれている。二つの法をまたいで電波行政を運用するとは、どういう意味を持つのか。



 さて、「安倍政治と言論統制」である。冒頭、「2016年3月は『テレビが死んだ日』として歴史に刻まれるかもしれません」と書く。こうした事態を受けて、現役テレビマンらの、匿名とはいえ、ばれたらクビともいえる生々しい証言を集めたのが、この書である。

 証言の一番手はNHKである。トップに籾井勝人という、報道機関には似つかわしくない人物を据えたことで組織のルールを逸脱した意思決定がしばしば行われ、現場には混乱と疑心暗鬼が生まれているという。そんな中でクロ現の菅義偉・官房長官インタビューは行われた。これが、国谷降板の直接のきっかけになったというのが「大方の見方」だとする(もちろん、そのことを断言できるのは政権中枢の人間を除いて誰もいない)。

 このインタビューの直後、官房長官の秘書官がディレクターを激しく叱責したことが語られている。一部週刊誌で報じられた、籾井が官邸で土下座したとの事実はなかったようだ。なお、クロ現の後任問題もひと悶着あったようだ。8人の局アナで回す予定が7人になったという。外れたのは有働由美子で、籾井が難色を示したという。理由は、発言が奔放すぎるかららしい。それが時に政権批判に向かうことを恐れたのではないか、と証言者はにおわせる。

 NHKでは昨年春、NW9の大越健介キャスター降板をめぐり不透明な動きがあったとされる。籾井会長がどう動いたか定かでないが、腹心である板野裕爾専務理事(放送総局長)が最終決断を下した結果だと、証言者は語る。

 現役テレビ局員4人による対談で、取材対象とべったり一体になることの是非が論じられている。かつて自民党内に派閥が健在?だった頃、入り込まなければネタはとってこられなかった。そうして得た各派の情報を突き合わせ、比重をかけなおすことで立体的な政治ニュースが出来上がった。今は派閥がなく、ネタ元が一元化してしまっているので情報の突き合わせようがなく、対象密着の取材手法の悪い面ばかりが出ているというのだ。そのとおりで、政治の構造が変わった以上、政治取材の在り方自体も見直されるべきだろう。

 池上彰と佐高信の対談では、ジャーナリストが価値相対主義を捨てなければならない瞬間があるのではないか、それは今ではないかをめぐって二人のスタンスの微妙な違いが興味深い。もちろん、池上は越えてはならない一線があるといい、佐高は「捨てなければならないときがある」との主張である。いま揺れているテレビの報道番組に問われていることの根源もこの辺りにあるのだろう。

 ちなみにいえば、模様替えした「NEWS23」の星浩キャスターは、「直言居士」だった岸井とは違い、特に政治に関しては外形的なバランスに腐心しているようにみえる。



「テレビ現場からの告発! 安倍政治と言論統制」は金曜日刊、1300円(税別)。初版第1刷は2016年3月30日。


安倍政治と言論統制 (テレビ現場からの告発!)

安倍政治と言論統制 (テレビ現場からの告発!)

  • 作者: 『週刊金曜日』編
  • 出版社/メーカー: 金曜日
  • 発売日: 2016/03/24
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

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