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アルメニアの受難史~映画「消えた声が、その名を呼ぶ」 [映画時評]

アルメニアの受難史~映画「消えた声が、その名を呼ぶ」

 アルメニア。その国名を聞いて所在地が分かる人がどれだけいるだろうか。トルコとアゼルバイジャンに挟まれ、グルジア(外務省表記ではジョージア)の南に位置する。第1次大戦まではオスマン帝国、大戦後(ロシア革命後)にソ連邦に組み込まれた。オスマン帝国にあるころ、キリスト教徒が多かったアルメニア人はイスラムの国(スルタンの国)だったオスマン帝国に迫害され、一説には150万人ともいわれる虐殺事件も起きた。

 1915年、オスマン帝国のマルディン。鍛冶職人のナザレット(タハール・ラヒム)は妻と双子の娘の4人でつつましく暮らしていた。ある日の深夜、オスマンの憲兵隊に連行され、灼熱の砂漠で働かされる。その後、一列に並べられ、一斉にのどを掻き切られる。しかし、偶然にもナザレットは生き延びる。切断された声帯が命の代償だった。彼は、故郷の家族を求めて砂漠をさまよう。

 日本ではあまり知られていない、このジェノサイドと第一次大戦前後のオスマンを取り巻く政情を軸に、映画の前半は展開する。この辺りは、かなり興味深い。同時代のオスマン帝国を舞台にした「アラビアのロレンス」は英国の諜報員が主役であったが、こちらはその裏面史ともいえる。「娘たちは遊牧民に連れられていった」という不確かな証言を手掛かりに始まる後半は、アレッポ(現在は内戦下のシリア)からレバノン、キューバ、フロリダからノースダコタへと「娘を訪ねて何千里」の物語に変わる。おそらく、地球を半周するような旅である。スケール感はあるが、前半のような緻密なドラマはない。

 戦争はいつも愚かしく残酷で人の運命を狂わせる。それが映像ににじむ作品である。ドイツ・フランス・イタリア・ロシア・ポーランド・カナダ・トルコ・ヨルダン合作。トルコ人であるファティ・アキン監督が作品を手掛けたことに意味がある。原題は「The Cut」。切られたのは喉であり、家族の絆でもあるだろう。現在、アルメニア人は本国より国外在住のほうが、人口が多いとされる。この映画でも、そうした運命をたどった彼らが築く貧しいコミュニティが各所に描かれる。そのこともまた、彼らの長年の受難史を浮かび上がらせる。


 

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