若い世代が不幸にならないために~濫読日記 [濫読日記]
若い世代が不幸にならないために~濫読日記
「14歳<フォーティーン>満州開拓村からの帰還」(澤地久枝著)
少女は14歳になった。家族とともに、満州で暮らしている。1944(昭和19)年。新聞は夕刊発行をやめた。そのときの朝刊には「『決戦非常措置要綱』への対応」と出ていた。「決戦」とは何か。少女には本当の意味は分かってはいなかった。郵便ポストも姿を消すという。金属回収のためである。少女の母はそれを聞いて「この戦争は負けね」とつぶやく。少女はとっさに返す。「お母さんは、非国民ね」
少女は千人針を作るため、放課後には市場の前に立つ。特攻に出撃する若者の声がラジオから流れ、ひどく感激する。「戦争」へとのめりこんでいく。少女には何でも分かっていると思えた。「つくりもの」の真実などあるわけがないと思った。
この「軍国少女」は、14歳のころの澤地久枝である。こうして彼女は敗戦を迎える。
8月9日の夜、彼女の一家は空襲にあう。しかし、爆撃したのはB29ではなく、ソ連機だった。その時から過酷な難民生活が始まる。まず自分で髪を切った。強姦にあわないためである。8月15日を境に、すべてが変わった。少女は茫然自失のまま、帰国までの一年間をすごすことになる。ドイツは敗戦直前に200万人の同胞を本国へ輸送したというが、当時の日本軍にそんな知恵はなかった。なにせ、真っ先に戦線から逃げ出したのだ。そのため、何の武器も防御策も持たない百万人近くの日本人が、異郷の地に置き去りにされた。
しかし、彼女は15歳の終わり近くに、幸運にも満州の地を離れることができた。敗戦までの記憶に封をし、何かを欠落させたまま。
著者自身が書いているように、これは「記録=ドキュメンタリー」ではない。日本の敗戦を挟んだ2年間の過酷な体験は確かに貴重であるが、著者はそうした「記録化」へと向かってはいない。あくまで14歳の少女の多感な心象風景にこだわっている。それは、どうしても現代の14歳と同じ目の高さに立って「戦争」とは何かを伝えたいという思いからであろう。「おわりに」では「遠い日の戦争が、つぎの世代の不幸とむすびついている」ことに気付いたからだと、著者は書いている。この思いを若い世代がしっかりと受け止めてくれることを願う。
「14歳<フォーティーン>満州開拓村からの帰還」は集英社刊、700円(税別)。澤地久枝はノンフィクション作家。1930年東京生まれ。49年、中央公論社。63年に退社。著書に「妻たちの二・二六事件」(中公文庫)、「昭和史のおんな」(文春文庫)など。
14歳〈フォーティーン〉 満州開拓村からの帰還 (集英社新書)
- 作者: 澤地 久枝
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2015/06/17
- メディア: 新書
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