残虐な加害体験とどう向き合うか~濫読日記 [濫読日記]
残虐な加害体験とどう向き合うか~濫読日記
「戦場体験者 沈黙の記録」(保坂正康著)
「戦場体験者 沈黙の記録」は筑摩書房刊、1900円(税別)。初版第1刷は2015年7月15日。保坂正康氏は1939年、札幌市生まれ。同志社大卒。出版社勤務などを経て著作活動。日本近現代史。2004年に個人誌「昭和史講座」で菊池寛賞。 |
戦後、戦争を回顧した著作物が数多く出版された。その大半は、自らが戦場で行った多くの加害行為の核心を覆い隠すか、ごまかすか、美化した。場合によっては、都合よく改ざんした。 戦場で残虐行為を指示、命令した将校たちが言を左右にして責任回避する中、直接手を下した兵士たちは戦後、記憶のフラッシュバックの中で体験をだれにも口外できないまま苦悩した。しかし、戦争から70年が過ぎ、加害体験を持つ世代は、若くても85歳以上である。ほとんど語られることのなかった体験をどう継承していくのか。
この重いテーマを、ノンフィクション作家の保坂正康氏が体系的にまとめた。「戦場体験者 沈黙の記録」である。彼は40年間で4千人近くを取材したという。その際の気構えとして五つのことをあげている。
①戦闘体験者の証言は、日常のスペース(例えば茶の間)では聞いてはならない②証言は黙って聞く③匿名を基本として聞く④内容が真実かどうかは、聞き手が判断する⑤証言の重さは聞いた側も背負う覚悟を持つ。
戦争が終わったいま、戦場体験者がその過酷さを語るということは、人間性の根底からの否定にもつながってしまう。その重さを受け止める覚悟がなければ、証言を聞くことはできない。しかし、一方で彼らの証言は永遠に沈黙の底に沈めておいてはならないから、なんらかの形で後世に伝えなければならない。
保坂氏は2000年に中国・平頂山事件の記念館を訪れた時のことを記している。日本からの訪問者が「日本の軍国主義を許さない」などと書いたリボンや布を花束に巻いているのを見て、違和感を覚える。そして、中国側の案内者に対して「日本軍の軍人、兵士にかわって、私は謝らない」と話す。
これは、分かる気がする。私たちが、かつて兵士たちの行った行為の外側に立ち、「残虐行為を糾弾する」と叫んでも、何も解決しないのだ。では、何をすればいいか。少なくともそれを考える手掛かりが、この真摯な一冊にはある。
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