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庶民が生きた「戦争」の時代~濫読日記 [濫読日記]

庶民が生きた「戦争」の時代~濫読日記

「生きて帰って来た男―ある日本兵の戦争と戦後」

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「生きて帰って来た男―ある日本兵の戦争と戦後」は岩波新書、940円(税別)。初版第1刷は2015619日。小熊英二は1962年、東京生まれ。1987年、東京大農学部卒。出版社勤務の後、1998年に東京大大学院博士課程修了。慶応大総合政策学部教授。社会学者。著書に「社会を変えるには」(講談社現代新書)、「1968」(新曜社)「民主と愛国―戦後日本のナショナリズムと公共性」(新曜社)など。



 

















 「戦争」を描いた作品として、大岡昇平の「野火」「俘虜記」、あるいは五味川純平の「人間の条件」が知られる。「野火」や「人間の条件」は映画化もされた。大岡にしても五味川にしても、当時としては大学を出たインテリ層にあたる。文才も備えている。これに対して「生きて帰って来た男―ある日本兵の戦争と戦後」は、いわゆる庶民階層の戦争体験を描く。冒頭に上げた小説群とは違って、聞き書きに基づいたノンフィクションである。著者は社会学者の小熊英二。対象とされたのは小熊の父謙二。昭和1911月、19歳で陸軍二等兵として入営した謙二はやがて旧満州に送られる。おそらく、関東軍の主力が南方に展開させられたための補充であろう。戦争は末期を迎え、ソ連軍の侵攻を受ける。桁違いの兵力の前に、謙二らはなすすべなく捕虜となる。既に日本が敗戦を受け入れた後の8月下旬のことだった。 シベリア抑留を経て、謙二は昭和23年、4年ぶりに帰国する。

 ――新潟にいた父の雄次の自宅へ戻ったものの、涙の出迎えといった劇的なものは何もなかった。

 その後、謙二は職業を転々としながら、敗戦後の日本を生きる。

 「あとがき」で著者が記すように、この戦争体験記は他と違う際立った特徴を持つ。それは戦前と戦後の生活ぶりが戦中と同じ比重で描かれていることである。謙二は1925年生まれだから、昭和の年と年齢が一致する。謙二の生涯を描くことは「戦争」を描くことであると同時に、昭和史をたどる意味合いもある。この点を著者は「『戦争が人間の生活をどう変えたか』『戦後の平和意識がどのように形成されたか』というテーマも論じている」と書いている。

 ここにいる人物に「普通」や「平均的」といった形容詞があてはまるかどうかについて、著者は「判断は難しい」という。そもそも「普通」や「平均的」といった日本人は存在しないからだ。しかし、どこにでもいたであろう日本人のくぐってきた「戦争」の実像に近いものが、ここにあるのは確かである。

生きて帰ってきた男――ある日本兵の戦争と戦後 (岩波新書)

生きて帰ってきた男――ある日本兵の戦争と戦後 (岩波新書)

  • 作者: 小熊 英二
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2015/06/20
  • メディア: 新書


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