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死へと近づく寺子の心~映画「白河夜船」 [映画時評]

死へと近づく寺子の心~映画「白河夜船」

 最近の若い人には、吉本隆明はばななの父、となるのだろうが、我々の世代には吉本隆明の娘ばなな、となる。その吉本ばなな原作「白河夜船」を観た。原作は読んでいない。

 寺子(安藤サクラ)は眠り続ける。いつも睡魔が体を押さえつけているようだ。ときどきかかってくる不倫相手・岩永(井浦新)からの電話が現実に引き戻してくれる。岩永とは絶妙の関係だ。怜悧で、いつもものごとを合理的に解決する。「『○○しましょう』という言い方がとっても好き」と寺子は岩永に打ち明ける。この言葉が、二人の関係を表している。命令でもなくお願いでもない。二人の間の巧妙な距離感。その間には、少し冷たい風が吹き抜けている。だが、こうした関係に絡め取られる自分を、寺子はまんざらでもないと思っている。

 岩永の妻は交通事故で植物状態にある。岩永は妻の世話をしながら、寺子とも関係を続ける。寺子とのことを、妻は許してくれると思う、と岩永は打ち明ける。寺子には、「添い寝屋」という奇妙なアルバイトをしていた親友・しおり(谷村美月)がいたが、彼女は自殺してしまった。死のふちの手前で眠り続ける岩永の妻、死のふちに沈み込んでしまったしおり。その中で寺子の眠りはどんどん深まっていく…。

 寺子は公園で少女(紅甘)に出会う。少女のサゼッションで、アルバイトを始める。1カ月間で稼いだわずかなカネを前に、寺子の心は少しばかり死のふちから浮上するかのようだ。

 これを、「再生」の物語ととるのかどうか。昔、太宰治の評価を問われた三島由紀夫が、太宰が抱える問題などはラジオ体操と乾布摩擦を毎朝すれば解消すると語っていたが、それに似ていなくもない。とはいえ、巧妙な人間関係に潜む闇とアイデンティティーのもろさを描き出した、という意味では見るべきところもある作品である。監督の若木信吾はもともと写真家。そのせいか、スチール的ないい構図がちりばめられている。

 白河夜船.jpg

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