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公共圏の危機 政治介入の仕組みを変えよ [濫読日記]

公共圏の危機 政治介入の仕組みを変えよ

「NHK 新版 危機に立つ公共放送」(松田浩著)

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「NHK 新版 危機に立つ公共放送」は岩波新書、820円(税別)。初版第1刷は20141219日。松田浩氏は1929年東京生まれ。1953年東北大卒。日経新聞社入社、放送担当記者、編集委員を経て立命館大教授、関東学院大教授。



 














 自民党情報通信戦略調査会は4月17日、NHKとテレビ朝日の幹部を呼び、個別的な番組について事情を聞いた。NHKは「クローズアップ現代」のやらせ問題、テレビ朝日は「報道ステーション」でコメンテーターが菅義偉官房長官を名指しし「官邸からバッシングを受けた」と発言した問題だった。 政権党が、テレビ局の個別番組について「事情を聞く」というのは、戦後メディア史の中でも特異なことである。憲法21条の「表現の自由の保障」に抵触する恐れがあり、放送法第3条「放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない」にも違反すると考えられる。自民党の側がなんと言い訳しようとも、これは個別の番組に対する圧力以外の何物でもない。

 この行為の根源的問題は何だろうか。そして、どのような思考回路で自民党はこうした愚挙に出たのか。NHKを含め、テレビ局の自主・自立はどのように保障されるべきか。

 こうした問題を考えるのに最適な書が、この「NHK 新版」である。なお、一つだけ事前にいっておけば、自民がこうした行動に出る背景には、憲法改正草案第21条「表現の自由」で、現行憲法にない第2項「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、ならびにそれを目的として結社をすることは、認められない」を追加しようとしており、これを先取りした行為だと解釈できないことはない。しかし、もとより現行憲法下では、明確な違憲行為である。

 「NHK」に戻る。NHK問題を国民的レベルで議論しなければならない理由として松田氏は、「民主主義社会における『公共圏』の危機」「『知る権利』や多様な表現・言論の自由など戦後民主主義の基本的価値への脅威」と深くつながっている、と指摘する。NHKやテレ朝への抑圧的行動は戦後、われわれ市民が手にすることができた「公共圏」を狭めることになる、ということである。こうした観点で、松田氏はBBCの元会長グレッグ・ダイク氏の発言を引用する。「公共放送にとって重要なのは政治家を監視することだ……特に権力の大きい政府の監視はより大切だ。そのために公共放送は政府から独立していなければならない」。こうも語っている。「政府と公共放送では目的が違う。政治家や政府の目的は権力の維持だ」。

 松田氏は、こうした考えの延長線上に、放送法第4条から読み取った「言論の自由市場」(ジョン・ミルトン)という概念を提示する。対立する多様な意見をできるだけ多く提示する。これこそが「政治的公平」につながる道である。自民党が昨年の衆院選直前に、テレ朝のアベノミクス報道に対して出した個別的番組に対する機械的な「中立」要請が、真の中立につながるものではないのである。

 そのうえで松田氏は「三つの独立」を提唱する。第一は放送活動そのものの独立、第二は組織、人事面での独立、第三は予算・事業計画の独立性である。実はこれらは、戦後初期(GHQ時代)にはそれなりの配慮が払われていた。電波監理委員会という行政委員会方式だったNHKの運営が、サンフランシスコ講和条約締結直後の吉田茂内閣による電波監理委員会の廃止で郵政相(後に総務相)による管轄に変わり、自民党政調、総務会による予算審議という「密室の仕組み」がつくられたことが大きい。これがNHKの独立を空洞化させ、政治介入を常態化させた。予算を人質にとることで、放送内容に口出しをするシステムである。これが、BBCとは似ても似つかぬ「公共放送」のかたちを現出させる要因となったのである。

 では、NHKをどのように変えたらいいか。松田氏の提言は以下のとおりである。①独立通信・放送行政制度の確立②会長や経営委員の選任システムの改革③視聴者との関係で説明責任の徹底④従業員の内部自由の確立。

 公共放送と民間放送の違いをどう考えたらいいか。公共圏での言論自由市場への関与と責任、ジャーナリストとしての内部的自由の確立といった面では変わりはない。民放と違うのは、NHKには年間視聴料6千億円以上という安定財源がある。それだけに、視聴率を気にすることなくジャーナリズムの徹底を図るという重い責任が、民放以上にあると言える。

NHK 新版――危機に立つ公共放送 (岩波新書)

NHK 新版――危機に立つ公共放送 (岩波新書)

  • 作者: 松田 浩
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2014/12/20
  • メディア: 新書

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