原発輸出の無責任さを暴く~濫読日記 [濫読日記]
原発輸出の無責任さを暴く~濫読日記
「原発輸出の欺瞞 日本とベトナム、『友好』関係の舞台裏」(伊藤正子・吉井美知子編著)
2011年の福島原発事故後も、安倍晋三政権は原発セールスに熱心である。事故前から進められていたベトナムへのインフラ輸出も、継続が確認されている。この路線には、大きく二つの問題がある。一つは、原発事故が原因で福島周辺であれほどの惨状が出現し、なすすべもないことが分かっていながら、あえてその技術を他国へ輸出することの無責任さ。もう一つは、ベトナム自身の問題である。
ベトナムの問題とは何か。一党独裁の国であるから、情報が統制されていること。日本の原発事故の実態も正確には伝わっていないだろう。国がいうことはすべて正しいと思うか、まったく関知せずになすがままに任せるか。どちらを取るにしても、最悪の事態が起きた時に被害をこうむるのは国民である。もう一つは、ベトナムは多民族国家であるから、必然的に少数民族に深刻なしわ寄せがいく。
しかし、2013年に日本とベトナムは、原発輸出の継続を確認したとされる。
原発は、差別構造の上で成り立っていると言われる。原発労働者は何重もの下請け構造の中で働かされている。さらに、地域的な格差の中で原発産業は成り立っている。米軍基地を抱える沖縄と同様、東北や日本海側の地域が、原発を抱えさせられている。原発輸出は、その上に、国際的な格差、差別構造を生みだそうとしている。この書では、最終的に①脱原発を目指す米国②原発稼働とインフラ輸出を目論む日本など③原発を稼働する途上国―という構図を描く。モンゴルなどは、ウラン発掘(被曝を伴う)→原発を持つ他国への輸出→使用済み核燃料の処理という、最悪のサイクルを受け持たされる恐れさえある。そしてもちろん、原発輸出にはエネルギー問題にとどまらない、核戦略上の思惑がひそむ。ベトナムでいえば、核兵器を持つ中国への対抗という側面も無視できない。いわゆる核拡散の問題である。
これらの問題を、ベトナム研究の専門家たち9人が多面的に掘り下げたのが、本書である。
ベトナム政府は2030年までに8か所、計14基の原発を造る計画でいる。そのうちニントゥアン省の第1原発はロシア、第2原発は日本が請け負うことが決まっている。建設を前に実現可能性調査が日本原電の手によって行われたが、本書の著者らが調査結果の公開を求めたところ、ほとんど墨塗りで極めて不透明という。ベトナムだけでなく、日本も情報統制下にあるといっていい。半面で、原発インフラに反対する日本国内の世論(2013年6月の時事通信調査で「原発輸出を支持しない」は58%)は全く無視されている。
読んでいて、あまりの問題の多さに愕然とするほどだ。そしてこの書は、「私たちにできること」という最後の章を、こう結んでいる。「ベトナムで止めようと思うなら、まず日本で止めよ」―。
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