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「負け直す」ことの必要性~濫読日記 [濫読日記]

「負け直す」ことの必要性~濫読日記


「街場の戦争論」(内田樹著)

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「街場の戦争論」はミシマ社刊、1600円(税別)。初版第1刷は20141020日。内田樹は1950年東京生まれ。東京大文学部卒。神戸女学院大文学部を2011年に退官。フランス現代思想論。神戸市内で武道と哲学の学塾を主宰している。



 















 戦勝国(=米国)に永遠に服従することで、敗戦を否定する。白井聡の「永続敗戦論」だが、内田もまたこの地点から情況をみる。敗戦を否定するがゆえに、次の戦争への準備へと国家を向かわせる。「戦間期」(内田は「戦争間期」と表記)の思想である。先の「負けた戦争」と、「次の戦争」との間に「宙づりにされた日本」の現実があるとみれば、たしかに今の政治状況は読み解ける。

 では、この情況を突破するにはどうすべきか。追体験によって、あらためて「先の戦争を負け直す」ことだろう。内田もそう言う。日本は、先の戦争(この言い方も嫌ないい方だが)で負けたことの意味をとらえ直すことなく、戦後(の復興)へと踏み出したのだ。その先には対米追従→軽武装→経済成長へのひた走り、という保守党の選択があった。

 内田は、戦争の「負け方」についての比較論を持ち出す。ここで内田は「フランスは戦勝国ではない」という歴史的事実を指摘する。フランスにはレジスタンスがあったものの、国家としてはナチスと共同歩調をとったヴィシー政権があった。つまり、フランスは連合国の側ではなかった。しかし今、国連安保理常任理事国の一員であり、核保有国クラブの一員でもある。戦勝国扱いなのだ。なぜそうなるのか。ド・ゴールがいたからである。その類まれな腕力が、フランスを戦勝国の側に引き寄せた。ナチスにすり寄ったヴィシー政権をフランスの歴史の中でカッコつきの存在にし、フランス国家と国民を「別の地平のもの」とすることに成功したのだ。この手法は、程度の差はあれ、ドイツにも共通する。ナチスによる一時的な錯誤による戦争、というかたちでナチスドイツの時代をカッコでくくり、「戦後のドイツは違う」と世界に認識させた。イタリアとムッソリーニの関係も似ていよう。

 日本の場合はどうか。敗戦を通じて「戦争を起こした勢力」と「そのほかの勢力=非戦の勢力」を腑分けできなかった。そのため、いまだに「敗戦」を認めることができない。従って対米追従からも逃れられない。何が日本を戦争へと向かわせたかをきちんと解明しない限り国際的自立はないだろう。そこを、内田はこう書く。

 ――僕たちが敗戦で失った最大のものは「私たちは何を失ったのか?」を正面から問うだけの知力です。

 今なぜ安倍政権が反知性主義に走るのかも、この地平から説明可能だ。日本は世界でどう生きるのか、が棚上げされたのだ。それは戦後、ついに国民的規模で見返されることはなかった(この視点を、内田は「戦艦大和の最期」を一夜で書いたという吉田満の言葉として紹介する)。

 ヒットラーを一時的な存在としてカッコの内に入れてしまう手法を日本で試みた作家がいた。「参謀本部=鬼胎説」をとった司馬遼太郎である。幕末から日露戦争までの日本は「本当の日本」であり、その後の40年間は「偽りの日本」であるという説である。そしてその後再び「本当の日本」に戻った、という仮説はしかし、挫折する。幕末~日露戦争(「竜馬がゆく」から「坂の上の雲」まで)と戦後を繋ぐ回路がないからだ。背景には、例えばフランスのド・ゴールやヒットラー暗殺を企てたシュタウフェンベルク大佐(「ワルキューレ」計画)が、日本に不在であったという深刻な事実がある。

 戦時の天皇制を「無責任の体系」と批判したのは丸山真男だが、彼も所詮は「戦後」という安全地帯から戦時体制を批判しただけだった。美濃部達吉が、戦後憲法の受け入れに抵抗したことを内田は紹介している。欽定憲法から国民主権への移行手続きが法理論的に説明できない、というのが理由だった。国家としての「筋目を通す」ことに、美濃部はこだわったのである。ここを素通りしたため、いまだに戦後体制の空隙が語られているのは周知の通りだ。

 今からでも遅くはない、というより、今からでもやらねば先へは進めない、というべきかもしれない。なぜ、あのような戦争に走ったのか。何が間違っていたのか。戦争をしない日本は本当に存在するのか。そこを語りつくさないと、日本は永遠に「戦間期」から抜け出せいだろう。永遠に米国に従属しながら次の戦争を準備する。それであなたはいいのか。内田はそう言っている。

街場の戦争論 (シリーズ 22世紀を生きる)

街場の戦争論 (シリーズ 22世紀を生きる)

  • 作者: 内田樹
  • 出版社/メーカー: ミシマ社
  • 発売日: 2014/10/24
  • メディア: 単行本


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