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「脱成長」の経済システムを模索せよ [濫読日記]

「脱成長」の経済システムを模索せよ~濫読日記

資本主義の終焉と歴史の危機(水野和夫著)
 

資本主義の終焉.jpg 「資本主義の終焉と歴史の危機」は集英社新書、定価740円(税別)。初版第1刷は2014319日。水野和夫氏は1953年愛知県生まれ。日本大学国際関係学部教授。エコノミストを経て内閣府大臣官房審議官。 














 著者はまず、利子率の推移に注目する。そして、資本主義の起源を、ローマ教会が上限33%の利子率を容認した1215年ごろに求める。ここで重要なのは、不確実なものへの貸し付けにも利子を認めたことである。リスクを加味した資本の運転を認めたのである。

 利子率(長期国債利回り)は17世紀初頭、イタリアのジェノバでいったん低迷する。2%を下回る時代が11年間続く。昨今の日本の国債利回りは、もちろんこのラインを下回っている。つまり、400年ぶりにジェノバの記録を更新したことになる。ジェノバの長い16世紀の後、長い21世紀を迎えたのである。これはどういうことだろうか。

 ちなみにいえば、16世紀ごろスペイン皇帝が南米で銀を掘り当て、これが取引先であるイタリアの銀行に集まってだぶつき、投資先がなくなったのだという。これも今の日本の経済状況に似ている。

 17世紀初頭のジェノバで、いったん資本の回収が困難な時代(金利が2%を下回ればそういう事態だと著者はいう)に陥ったのと同様、いま日本は投下した資本の回収が困難な時代を迎えているのではないか。この異常な金利低下の時代を、著者は「資本主義の終わりの始まり」と見る。国債利回りは1974年に日英でピークを記録し、1981年に米国がピークに達する。しかし、その後は各国とも趨勢的に下落する。これを「資本主義の死」というのである。

 次に「交易条件」という概念が提示される。先進国でモノをつくり、新興国で売る。しかし、ここで生まれる見返りの利潤は、新興国の発展とともに低下する。交易による利益が圧迫されれば、どんな事態が生じるか。市場の電子・金融空間を拡大して1秒間の数億分の1の取引を成立させ、利益を生みだす。いわゆる金融資本主義である。しかし、このシステムは必然的にバブルを生みだす。

 一方で、世界の隅々まで資本主義化するという新自由主義が強まる。これは、政府より市場のほうが正しい資本の分配ができるという仕組みだから、必然的に資本家へのリターンが増え、労働者への分配は減る。つまり、貧富の格差は拡大する。金利の低下によって資本の回収率が低くなれば、その傾向は一段と強まる。

 著者の視点は金利の推移をベースに世界史と経済史を重ねた世界経済史である。これまでにも、「異次元緩和」をうたい文句にするアベノミクス批判はあり、それぞれに説得力を持つが、これほど長期のスパンで日本経済の現況を読み解いたものはなかった。極めて腑に落ちる論である。資本を転がして利益を得、世界の中心から周縁へと資本主義を拡大していく、という構図そのものがもはや無理なのである。中国でのバブルがはじければ、ますますその傾向は強まるだろう。

 では、どうするか。資本主義を既に耐用年数を過ぎた経済システムだと認め、脱成長のシステムを模索すべきだろう。それなのに、この期に及んでなお「成長教」にしがみつくのは、傷を深くするばかりである。著者は、「資本主義の終焉を告げる鐘の音がはっきりと聞こえている」と言っている。


資本主義の終焉と歴史の危機 (集英社新書)

資本主義の終焉と歴史の危機 (集英社新書)

  • 作者: 水野 和夫
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2014/03/14
  • メディア: 新書

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