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「雨乞い政策」の欺瞞をつく~濫読日記 [濫読日記]

「雨乞い政策」の欺瞞をつく~濫読日記

アベノミクスの終焉」(服部茂幸著)

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「アベノミクスの終焉」は岩波新書、定価740円(税別)。初版第1刷は820日。服部茂幸氏は1964年、大阪生まれ。福井県立大経済学部教授。理論経済学。著書に「新自由主義の帰結―なぜ世界経済は停滞するか」(岩波新書)など。

 













  リーマン・ショック(2008年)が起きたのは遠い昔ではない。しかし、日本経済はいま同じ道を歩もうとしているかに見える。これが筆者の視点である。リーマン・ショックの前にも金融緩和措置が行われた。その理論的根拠を与えたのはバーナンキFRB議長だった。バブルが返済不能な負債を生み、はじけた。発端は米国市民の家計の破綻だった。今回バブルがはじけるとしたら、企業の破綻によるものであろう。筆者はアベノミクスについて、極めて適切な格言を持ち出す。

 ――雨乞いは必ず雨を降らせることができる。なぜなら、雨が降るまで続けるからだ。

 これを現在の日銀の異次元緩和策に置き換えれば、こうなる。

 ――異次元緩和は、必ず日本経済を復活させることができる。なぜなら、日本経済が復活するまで続けられるからだ。

 金融政策が日本経済の復活にどれほどの効果をもたらすか、誰にも分からない。しかし一方で、異次元緩和とは無関係に為替市場や株式市場、そして日本経済が動いているのではないか、という具体的証左は見いだすことができる。例えば経済成長率。2013年上半期は4%を超えていた。安倍晋三政権ができたのは12年末であり、異次元金融緩和が実施されたのは13年4月である。皮肉にも、その年5月には株式は暴落、円安も止まった。周知の通り、14年上期の成長率はマイナスだった。金融緩和が実体経済に影響を及ぼすまでに半年から1年かかるとすれば、データをみる限りアベノミクスは日本経済の上昇に何の寄与もしていないといえる。この視点は伊東光晴氏「アベノミクス批判 四本の矢を折る」と共通する。

 筆者はさらに「偽薬効果」とケインズの「美人投票」の例を持ち出し、日本経済の現状を説明する。偽薬効果とは、実際には薬でなくても医師が患者に効果を信じ込ませればきくこともある、というもの。さらに「美人投票」とは、美人コンテストで一位を当てる投票を行った場合、投票者がそれぞれの主観で「美人」を選ぶのではなく、「みんなが美人だと思う」人に一票を投じるようになる、という心理的からくりを指す。アベノミクスに当てはめると、経済政策が本当に効果があるかではなく、みんなが「効果がある」と思っているかどうかだ、という心理状態を言っていることになる。そして13年5月の株式、為替市場の動きは「みんな効果がないと思っている」との方向へ触れたことを表していると筆者は言う。

 さらに、筆者があげる一つの格言は、金融政策は紐による操作に似ているというものだ(これも、伊東氏の前掲書にも出てくる)。つまり、紐は引っ張る時には効果があるが、押しても効果はない、というケインズの理論によっている。金融政策は引き締めの際は効果的だが緩和は紐を押す動作に似て効果をもたらさない。現在、日銀は紐を押しているのである。確かに、金融緩和で紙幣を増刷し企業の資金繰りがやりやすくなったとしても、それが設備投資に回ったり労働者の賃金に反映されたりするかは未知数だ。設備投資はリスクが伴うし、2000年代前半のいざなみ景気をみても、労働者の賃金への反映はなく庶民には実感なき好景気だった。「トリクルダウン」が盛んに言われるが、実際にそれがあるかは、過去の例から見て未知なのである。

 これらを踏まえて筆者は、アベノミクスを「ゾンビ経済学」と断じ「失敗から学ばないものは同じ失敗を繰り返す」と結論付ける。あらためて、アベノミクスの現況をまとめれば、こうなる。極めて冷静かつ客観的な経済分析と思える。

 ①異次元緩和が始まると、経済成長率は低迷した。異次元緩和が日本経済を復活させているという証拠はない。

 ②消費者物価の上昇も、輸入インフレによるところが大きい。

 ③そもそも、アベノミクスの前に日本経済は世界同時不況から脱しつつあった。

アベノミクスの終焉 (岩波新書)

アベノミクスの終焉 (岩波新書)

  • 作者: 服部 茂幸
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2014/08/21
  • メディア: 新書

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