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アメリカ社会の病理をえぐる~映画「ゴーン・ガール」「マップ・トゥ・ザ・スターズ」 [映画時評]

アメリカ社会の病理をえぐる~

映画「ゴーン・ガール」「マップ・トゥ・ザ・スターズ」

 現代人は、メディアの向こうに作られたイメージによって支配される。視るものも、視られるものも。だからこそ、それを利用することを企てる人間が現れる。劇場型犯罪は、こうして生まれる。

 「ゴーン・ガール」は劇場型犯罪へと至る人間の精神的病理を克明に追った作品である。監督は、「セブン」や「ドラゴン・タトゥーの女」で戦慄の世界を築いたデイヴィッド・フィンチャー。

 ニューヨークでライターだったニック・ダン(ベン・アフレック)はエイミー(ロザムンド・パイク)と結ばれる。少女時代に「完璧なエイミー」を著し、ハーバード大を出たエイミーは美しく聡明で、一見誰もが羨む夫婦であった。しかし、5年後、不況で職を失った二人はミズーリの片田舎に引っ越す。そこから二人の生活に破綻が生じる。

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 エイミーが突如、失跡する。リビングには割れたガラスが散乱し、キッチンには大量の血痕。事件と認定され、捜査が始まる。暖炉の中で焼け残ったエイミーの日記には、家庭内暴力がつづられていた。エイミーが銃を求めていたとの証言も明らかになる。そして、彼女が妊娠していたとする診断結果。極めつけは、夫のニックに若い愛人がいたという事実の暴露である。

 世間には温厚で誠実と見られていたニックの人間像が一気に変わる。テレビが伝えるイメージが、あたかも真実であるかのように独り歩きし定着していく。

 ニックは、こうした夫婦間のトラブル解決を専門とする弁護士ターナー・ボルト(タイラー・ペリー)を雇い、対策を練る。そして、テレビの前で不倫の事実を認め、誠実に謝罪するという道を選択する。世間のイメージは逆転する。

 ニックの謝罪を、エイミーはテレビで見ていた。エイミーは生きていた。すべての「状況」は、つくり上げられていたのだ。何のために…。若い女アンディー・ハーディー(エミリー・ラタイコウスキー)との不倫が許せなかったのだ。すべては、夫を殺人犯に仕立てるための工作だった。しかし、ニックの世間的イメージが変わったことで、今度はエイミーが窮地に陥る。打開のため、彼女は新しい方法を選択する―。

 メディアを通じて、心理戦が続く。その中で、エイミーを演じるロザムンド・パイクの怜悧な表情が、とても戦慄的である。その美しい皮膚の下に透ける冷血とパラノイア的精神構造は、ヒチコック映画を見るようだ。そして、この世界が全くの虚構などではなく、アメリカ社会の病理を映したものだとの想像にたどり着けば、戦慄はさらに深まる。

    ◇

 「マップ・トゥ・ザ・スターズ」のタイトルを見たとき、これはハリウッドの階段を上る女性の物語かと思ったが、違った。フロリダから出て来たある女性がロスの、おそらくビヴァリー・ヒルズにある「スターの家」にたどり着くまで、握りしめていた地図。それがいわれである。形而上学的な意味だと勝手に思っていた題名が、具象的な意味だったのである。この「形而上」と「具象」の絡み合いは、実は映画の内容にも及んでいる。ハリウッドを舞台にした作品だが、どんな思い入れも夢もなく、残酷なまでに病的な世界を描写していく。漂うのは、欲望にまみれた人間たちの醸しだす薄気味悪さだ。監督は「ザ・フライ」のデイヴィッド・クローネンバーグである。そういえば、「マップ・トゥ…」の薄気味悪さは「ザ・フライ」に共通する。

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 ある事件を起こし、顔にやけどのある女性アガサ・ワイス(ミア・ワシコウスカ)は、フロリダから出てきて女優ハヴァナ・セグランド(ジュリアン・ムーア)のアシスタントになる。女優は既に峠を過ぎ、心には大女優だった母へのコンプレックスが宿る。アガサには、実はハリウッドに家族がいた。父スタッフォード・ワイス(ジョン・キューザック)はセラピストで、母クリスチーナ(オリヴィア・ウィリアムズ)はベンジー(エバン・バード)を子役として育てることに懸命である。しかし、ベンジーはドラッグにおぼれた過去を持ち、精神的にも不安定だ。しかし、ある事件を契機に捨てられたアガサは、もう家族の元に戻ることができない。その家族には、近親相姦という秘すべき過去があった。そのうち、精神に破綻をきたしたハヴァナの乱心ぶりに耐えかねて、アガサは…。

 欲望渦巻くハリウッドを、クローネンバーグが冷徹に切り取った。「ゴーン・ガール」は、劇場型犯罪に向かう心理を描いたが、「マップ・トゥ…」は、ハリウッドという「劇場」に生きる者たちの精神の腐臭を描いた。

 ただ、「アガサと家族の物語」に「峠を過ぎた女優の破綻の物語」がかぶさり、ストーリー展開の焦点が二つあるため、見ていて分かりにくい。カンヌ最優秀女優賞のジュリアン・ムーアは、ストーリー上は惑星的役柄と思うのだが…。そうした逆転現象が見るものを困惑させる。その点が残念だ。


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