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米国的風景論~映画「ファーナス 訣別の朝」 [映画時評]

米国的風景論~映画「ファーナス 訣別の朝」

 「ファーナス」とは溶鉱炉。その溶鉱炉から常に白煙が上がる古びて赤さびた製鉄所。ペンシルバニア州ブラドック、米国の田舎町が舞台のドラマである。

 ハイテク、情報産業が時代の先端を行く現代では、この重厚長大型産業の「遺跡」めいた施設は、いかにも時代に乗り遅れた印象をあたりに漂わせている。しかし、その製鉄所で辛うじて生計を立てようとする人間たちもいる。ラッセル・ベイズ(クリスチャン・ベイル)もその一人だ。彼にはロドニー(ケイシー・アフレック)という弟がいる。イラク戦争で精神的な傷を負い、社会復帰できないでいる。ギャンブルに明け暮れる毎日。それでも、製鉄所で地道に働こうと決心する。そのためには、これまでの借金を返済しなければならない。

 ロドニーは周囲の反対を押し切り、インチキ賭けボクシング(ボクシングとも呼べないような代物)に出て借金棒引きを頼む。しかし、麻薬の元締めでもあるジェラルド・“レッド”・ベイズ(サム・シェパード)は彼を殺してしまう。

 弟を殺されたラッセルは、一見無謀とも思える勝負を、レッドに挑む。ふつふつと煮えたぎる怒り。その銃口は、レッド個人に向けられたものではない。アメリカの底辺、どん詰まりの迷路を生きる男たちが、アメリカ社会に向けた怒りである。そうした意味では、このドラマに出てくる男たちの思いはそれほど違ってはいない。

 時代に取り残された製鉄所の、溶鉱炉で煮えたぎっているもの、それが男たちの怒りと同化する。そこに、アメリカ的風景論が成立している。

 監督は「クレイジー・ハート」のスコット・クーパー。あの映画も、アメリカの体温と体臭を伝えて、いい映画だった。

 ファーナス.jpg



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