甦る若き情熱の日々~映画「リスボンに誘われて」 [映画時評]
甦る若き情熱の日々~映画「リスボンに誘われて」
40年以上続いたポルトガルのサラザール体制は、軍部の若手将校によるクーデタで終わりを告げた。世界の主だった国の中では、おそらく最も遅い民主体制の到来だった。その前夜、独裁体制に抵抗する若者たちがいた…。
スイスの高校教師ライムント・グレゴリウス(ジェレミー・アイアンズ)はふとしたことで、ある古書を手に入れる。リスボンで100部のみ出版されたその書に激しくひかれてライムントは、授業を放り出しリスボン行の夜行列車に乗る。
著者のアマデウ・デ・プラド(ジャック・ヒューストン)は哲学に造詣の深い医師。親友とともに、独裁との闘いに加わる。エステファニア(メラニー・ロラン)をめぐる三角関係と、その果ての破たん…。
「いま」と「過去」が交錯する中で、若者たちの情熱の日々が次々に明らかになる。妻と離婚し、生きる情熱を失いかけていたライムントの心に、何かがよみがえる。せつないドラマが、リスボンのこのうえない魅力的な街並みを背景に展開される。ブルーノ・ガンツやクリストファー・リーがわきを固め、重厚さを醸し出す。
リスボンを去ろうとするライムントと、旅で知り合った女性とのやり取りも、なかなか味がある。すなわち、終わり方がとてもいい。上質のワインを味わっているようで、落ちつける映画である。もちろん、大の大人がこんなことぐらいで生活をほっぽり出すかよ、などと言ってはいけない。
不満があるとすれば2点。原作も映画の原題も「リスボンへの夜行列車」。このタイトルをあえて変えなければならなかったどんな理由があったのだろう。そして、メラニー・ロラン演じたエステファニアの老後は、なぜ別キャストになったのだろう。このシーンに関して若干興ざめの感を持った人は多かったに違いない。
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