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詐術的な安倍話法~濫読日記 [濫読日記]

詐術的な安倍話法~濫読日記


「集団的自衛権と安全保障」(豊下楢彦・古関彰一著)

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「集団的自衛権と安全保障」は岩波新書。初版第1刷は2014718日。820円(税別)。豊下楢彦氏は1945年生まれ、京都大法学部卒。元関西学院大教授。著書に「集団的自衛権とは何か」「安保条約の成立」(ともに岩波新書)。古関彰一氏は1943年生まれ。早稲田大大学院修士課程修了。独協大名誉教授。著書に「安全保障とは何か」(岩波新書)。

















 この書もまた、5月15日の安倍晋三首相会見から始まる。この会見は、二重の意味で犯罪的であった。ありもしないシナリオを開陳し、しかも危険にさらされる母子というパネルをつけて国民の心情に訴えようとした点である。

 著者の豊下氏はまず、朝鮮半島有事の際の邦人避難について、米軍の非戦闘員避難救出作戦の対象は米国人及び「友好国」のアングロサクソン系国民だけであり、日本人は入っていないとする。従って日本人は韓国人とともに避難すべきであり、必要なのは日韓の友好関係だという。安倍首相はそのうえで、私たちの家族が乗る米艦を私たちは守ることができない、としながら集団的自衛権の行使容認へ向けた解釈改憲を訴えたのである。やはりこれは、著者が言うとおり詐術的な話法であろう。

 豊下氏はまた、安倍氏が会見で、北朝鮮のミサイルが日本の国土の大部分を射程に入れていることを強調した点にも触れ、なぜそれを知りながら原発再稼働を急ぐのか、と疑問を呈している。これも、ほとんどの国民が納得する点であろう。例えば北朝鮮によって日本海の米艦が攻撃されたとする。ただちに自衛隊が反撃する。その次に北朝鮮がとるのは日本海沿岸にならぶ稼働中の原発をミサイルで攻撃することだろう。

 しかし、このシナリオも大きな欠陥がある。北朝鮮がある日突然、米艦を攻撃するということがあり得るかどうかである。少なくとも北朝鮮の指導者に理性のかけらでも残っていれば、そんな自殺行為は行わないであろう。歴史上、米軍に正面から攻撃を仕掛ける愚挙を犯した国は日本だけである。そんな日本の指導者だからこそ、こんなシナリオがあり得ると思うのだろうか。

 集団的自衛権に基づくホルムズ海峡での機雷掃海についても、著者は疑問を呈する。安倍首相は、集団的自衛権の行使について「海外派兵はしない」と言っている。つまり、他国の領海には立ち入らないということである。なおかつ武力行使についても否定している。

 しかし、ホルムズ海峡の最も狭い部分はイラン領とオマーン領で占められ、公海が存在しない。ホルムズ海峡の機雷除去のためにはどちらかの領海に入るしかなく、それを強行すれば武力行使になることは目に見えている。なおかつ、イランは今、国際的に対話路線に転じている。どんな局面で「ホルムズ海峡での機雷除去」が「海外派兵」でも「武力行使」でもなく成り立つのだろうか。

 集団的自衛権が有効性を持つのは、米韓とともに対中包囲網を築く、という国際情勢があればこそだろう。しかし、米中は経済面では世界で最も緊密なパートナーである。中国の習近平国家主席と韓国の朴槿恵大統領は7月初めの首脳会談で「朝鮮半島非核化」で合意した。こうして見ると、安倍首相がよく使う「安全保障環境の悪化」とは何を意味するのだろうか。少なくとも、中国と周辺国、及び米国が全面戦争をする、というシナリオは考えにくい。豊下氏も「そうした旧態依然たる構図はすでに崩れ去っている」とする。どう多めに見積もっても、突発的な武力衝突に対応するための最小限の個別的自衛権で済むのではないか。

 豊下氏は、ブッシュ大統領が始めたイラク戦争の総括が必要だという。はたしてこの戦争は国連憲章第51条の「個別的自衛権」に基づく戦争だったのか。答えは「否」であろう。では、こうした戦争で米国が日本に集団的自衛権に基づく武力行使を求めてきた場合、日本は応じるのか。柳澤協二氏は著書で「日本は米軍が協力を求めてきた場合、断ったことがない」と書いていたが、少なくとも今後はそれでは通らない。どんな場合にイエスといい、どんな場合にノーというのか。その意味でも、イラク戦争の総括は必要である。しかし、安保法制懇のメンバーはイラク戦争への協力を推進した人たちばかりである。そんな人たちに「報告」でイラク戦争の総括を求めるのが無理というものだろう。

 共著者で、安全保障問題の専門家である古関彰一氏は、北一輝「国家改造法案大綱」の末尾の言葉を抜き出している。岸信介は、この書の熱心な読者であったそうだ(原彬久「岸信介」)。それはこんな言葉だ。
 「戦ナキ平和ハ天国ノ道ニ非ズ」


集団的自衛権と安全保障 (岩波新書)

集団的自衛権と安全保障 (岩波新書)

  • 作者: 豊下 楢彦
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2014/07/19
  • メディア: 新書


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