SSブログ

日米安保を憲法より上位に置くのか~濫読日記 [濫読日記]

日米安保を憲法より上位に置くのか~濫読日記

「集団的自衛権の何が問題か 解釈改憲批判」(奥平康弘・山口二郎編)

 7-23-2014_003.JPG

「集団的自衛権の何が問題か 解釈改憲批判」は岩波書店刊。定価1900円(税込)。初版第1刷は716日。編者は奥平康弘・東京大名誉教授、山口二郎・法政大教授。












 安倍晋三首相が集団的自衛権の行使容認を閣議決定による憲法解釈の変更という形で踏み切ったことへの、各界の批判的意見を集めた。「集めた」というより「網羅した」という方がいいかもしれない。登場する論客は20人。アプローチの道筋は大きく三つに分かれ、一つは安倍政治の戦後史における位置、二つ目は立憲主義の破壊という観点、三つ目は国際環境の変化から見た安倍政治。

 首相は5月15日夕、安保法制懇の報告を受け、官邸で会見を開いて方向性を明らかにした。その際、米艦に乗せられた日本人母子というパネルを用意した。この設定は、ある意味で安倍式集団的自衛権容認論の本質を浮き彫りにしているともいえる。逆に言えば、ここには今回の「集団的自衛権」をめぐる問題の「いかがわしさ」が凝縮されている。

 まず、こうした状況に至るには、多くの段階があるはずである。外務省による在外邦人への警告、民間機による帰国、さらには民間特別機による帰国、自衛隊による邦人帰国計画…。米艦による帰国はその後に来るはずのものである。そもそも、米軍は邦人を軍用機、もしくは軍艦に乗せて脱出をサポートしてくれるものだろうか。普通に考えれば、攻撃対象となる米軍機・米艦で脱出するより民間機で脱出する方が、よほどリスクは少ないのではないか。

 首相が掲げたパネルで最初に浮かぶ疑問は、「これは自衛権の問題で、集団的自衛権の本質ではないのではないか」ということである。集団的自衛権とは究極には他衛権であり、売られてもいない喧嘩を自ら買って出る行為である。「米艦に乗って脱出する母子」という設定は、「他衛」とは最も遠い距離にある問題ではないか。

 この問題が想定されるとしたら、朝鮮半島有事のケースだろうが、この書の中で半田滋・東京新聞論説兼編集委員は、自衛隊には邦人救出極秘計画があり、米艦による救出が不可欠であるかのような首相の言は牽強付会だという。また、憲法学者の水島朝穂氏は、米国務省と国防省との間に、有事の際の救出作戦は米国民を優先させるという合意文書があると指摘している。そのため、国務省は外国人の退避計画について政府間協定を結ぶことを控えているという。

 こうしたことが背景にあるにもかかわらず、首相は「レア中のレア」なケースを持ち出し、現在の個別的自衛権の解釈には問題があると声高に強調する。その結果、どのような状況が生まれるか。柳澤協二氏は、北岡伸一氏との議論で北岡氏が「判断が悪ければ選挙で負けるし、最高裁で違憲と言われれば方針が修正される」と発言したのを踏まえてこういう。

 ――つまり、政権が代われば撤退させられる可能性があり、最高裁に持って行ったときに意見と言われる可能性のある任務を自衛隊員に与えるということである。

 柳澤氏の言っていることは明確である。万が一、集団的自衛権の行使に伴う任務で戦死者が出て、その後安倍政権の判断は間違いだったとされた場合、この自衛隊員は犬死だったことになる。

 集団的自衛権の問題を考える時、首相はなぜこれほどまでに急ぐのか、という疑問が常に残る。アーミテージを筆頭とする米国の要請は一つの要因だろう。しかし、どう考えてもそれだけとは思えない。中野晃一・上智大教授の「自衛や国防でなくグローバル経済秩序の維持」という観点は、武器輸出三原則の緩和問題なども合わせ、一つのヒントではある。

 日本人は戦後、平和主義憲法も日米安保も、という「都合のいい」選択をしてきた。一見、相矛盾する二つの路線を受け入れるための蝶つがい、もしくは天秤の支点が、この集団的自衛権は決して使いません、という態度表明であった。いま、集団的自衛権も使います、憲法9条2項の「交戦権の否定」も空文化させます、と言ったとたん、日米安保は憲法より優位に置かれ、この決定を閣議決定で済ませた政府も憲法より優位にあると宣言してしまったように思う。これは後戻りさせなければならないが、後戻りさせるための「損失」もまた大きいように思う。

集団的自衛権の何が問題か――解釈改憲批判

集団的自衛権の何が問題か――解釈改憲批判

  • 作者: 半田 滋
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2014/07/17
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0