他国のために血を流すのか~濫読日記 [濫読日記]
他国のために血を流すのか~濫読日記
「亡国の安保政策」(柳澤協二著)
「亡国の安保政策 安倍政権と『積極的平和主義』の罠」は岩波書店刊。1400円(税別)。初版第1刷は2014年4月24日。柳澤協二氏は1946年東京生まれ。70年東京大法学部卒、防衛庁(当時)入庁。2002年防衛研究所所長。現在はNPO法人「国際地政学研究所」理事長。著書に「検証 官邸のイラク戦争――元防衛官僚による批判と自省」(岩波書店)など。 |
著者は2004年から09年まで小泉、安倍、福田、麻生政権で内閣官房副長官補として官邸の安全保障戦略を支えてきた。それだけに、安倍晋三政権の安保政策に対する批判は現実的で精緻である。
柳澤氏は、自らの経験に立脚しながら、このように書く。
――集団的自衛権を行使する国というのは、「普通の国」ではない。それは、自国が攻撃されていないにもかかわらず他国のために軍隊を派遣できるのは、事実上「大国」以外にないからだ。
集団的自衛権の行使を宣言すれば、どう説明しようとも世界は日本を「軍事大国」としてみる、と柳澤氏はいう。そして、かつて集団的自衛権が行使された実例をあげる。ソ連によるハンガリー介入、チェコ・スロバキア介入、アフガン侵攻、ロシアによるタジキスタン介入。米国によるベトナム侵攻、ニカラグア侵攻。湾岸戦争、アフガン侵攻でも米国は集団的自衛権を主張した。
そのうえで柳澤氏は第1次、第2次安倍政権が上げた、集団的自衛権に関する七つの類型を逐一批判する。技術的な詳細は省くとして、氏はこのように指摘する。
――そもそも、集団的自衛権とは、自国が攻撃されていない場合に他国を守るための根拠であるから、これを行使しなければ日本を守れないという「具体例」を考え出すこと自体に無理があるのだ。
おそらく、今回の集団的自衛権に関する議論で大方が抱く疑問であろう。自国民を守るのに、なぜ集団的自衛権なのか。
さらにいえば、もしも米艦がどこかの国に攻撃されたとして、米国は自衛隊に助けを求めるだろうか。集団的自衛権を主張するためには被攻撃国から被害を受けたことの表明と援助要請がなければならない、というのがニカラグアに米軍が介入した際の国際司法裁の判断である(この時は二つの要件を満たさなかったため米側が敗訴した)。
柳澤氏によれば、日本はこれまで米国の武力行使に反対したことは一度もないという。ここから見えてくるのは、米軍が違法な武力行使をすれば日本も違法な武力行使を余儀なくされるということだ。「要請を断った場合、日米同盟は崩壊する」と柳澤氏は言う。
こうした事態は、まぎれもなく自衛隊員に「血を流す」局面につながる。柳澤氏は「自ら生命の危険に身をさらすことのない立場の人間が、日本人である自衛隊員の命にかかわることを軽々に口にすることに怒りを禁じえない」と、「日米関係を完全なイコールパートナーに」という安倍氏に怒りをぶつけている。
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