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現代に通じる奴隷制告発~映画「それでも夜は明ける」 [映画時評]

現代に通じる奴隷制告発~映画「それでも夜は明ける」


 アメリカ東部に住む自由黒人ソロモン(キウェテル・イジョイフォー)は、ある日白人の策略にはまり黒人奴隷として南部の綿花農場に売られる。白人たちの暴虐に耐えながら12年を過ごし、奴隷制廃止を唱えるカナダ人(ブラッド・ピット)と出会い、光明を見いだす。南北戦争の20年前、1841年のアメリカが舞台となっている。監督はロンドン生まれのアフリカ系イギリス人スティーブ・マックイーン(「大脱走」のマックイーンではない。念のため)。このような歴史上の恥部を描くことを許容するアメリカは、それなりに懐は深いと言える(日本だったらどうかを考えてみよう)。

 印象的なシーンを一つ。農園の大工に反抗的態度を示し、縛り首に遭いかける。農園の監督官に助けられるが、しばらくそのまま首に縄をかけ、半分つりさげられたまま放置される。黒人奴隷たちは見て見ぬふりをする。この光景、既視感がある。社会のセーフティーネットからずり落ちそうになりながら、だれも助けようとはしない。ハンナ・アーレントがユダヤ人虐殺に対して示した「忘却の穴」という概念。まさしくこれは「忘却の穴」=社会的黙殺=であり、このシーンがあるがゆえにこの映画は現代社会に通じる。ここでソロモンは白人でもなく、黒人奴隷でもない。もし彼がそのまま「つりさげられて」死んでいたとしたら、彼は歴史上何者でもなく死んでいったことになる。

 逆に言えば、このシーンが暗示するのは現代社会の新たな奴隷制度(新自由主義的格差社会)であるような気がしてならない。


 それでも夜は明ける.jpg


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