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他人の破滅は蜜の味~映画「鑑定士と顔のない依頼人」 [映画時評]

他人の破滅は蜜の味~映画「鑑定士と顔のない依頼人」 


 他人の不幸は蜜の味というが、やっぱり他人が堕ちていく物語は間違いなく面白い。古くはドイツ映画で、謹厳実直な大学教授が偶然知り合った踊り子に夢中になり身を崩す「嘆きの天使」(1930)があったが、この「鑑定士―」でも謹厳実直を絵に描いたような一人の男が破滅の淵に沈む。

 美術品の鑑定士として信用と名声を得たヴァージル・オールドマン(ジェフリー・ラッシュ)はそろそろ引き際を考える年である。そんな彼に若い女性から依頼が来る。父母の遺産を売りたいのだという。しかし、2度、3度とその女性クレア(シルヴィア・フークス)は約束を違える。ヴァージルは怒って依頼を断ろうとするが、結局仕事を引き受ける。

 クレアの住む館を訪れたヴァージルは、ドア越しにのみ会話する。クレアは広場恐怖症で、何年も外に出たことがないという。顔が見えない依頼人。この年まで女性と付き合ったことがないというヴァージルの心理に変化が現れる。ドアを閉め、外に出た振りをしてクレアの姿を見ることに成功する…。

 ここまでは、サイコスリラーを思わせる心理劇である。クレアとヴァージルの駆け引き。なんのために…。だが、ヴァージルはここから頂点へと登り詰める、かのように見える。だが、登りつめた坂が急であればある程、下り坂も急なのである。

 生身の女性より、肖像画の中の女性に囲まれて生きることに情熱を燃やすヴァージル。こんなこともどんでん返しへ向けた仕掛けの一つになっている。

 ジェフリー・ラッシュはこの上なくはまり役である。ヴァージルの相方、ドナルド・サザーランドも重厚だ。ジム・スタージェスが軽さを出して物語を重くさせ過ぎてない。残念なのは、シルヴィア・フークスが今一つ魅力に欠けること。しかし、ここは難しいところで、あまりに本物っぽくてもいけない役回りだ(分かりにくいが、それ以上書こうと思えばストーリーがばれてしまう)。そこまで考えたキャスティングであればジュゼッペ・トルナトーレよさすが、と言うほかない。

 見終わって、なにが偶然で何が作意だったかと、あらためてたどりなおしてみたくなる映画である。たぶん、もう一度見たら印象が随分違うだろう。魂を失ったかのようなヴァージルがたどりついたのはプラハの天文時計がある広場。女性より美術品を愛し続けた彼にはふさわしい死に場所、とでもいうかのようだ。いいですね、この味。

 原題「La migliore offerta」は英語で「The Best Offer」。なんだかこっちの方が似あっているような。2013年、イタリア。

鑑定士.jpg 

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