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殺す側と殺される側の論理と事情~濫読日記 [濫読日記]

殺す側と殺される側の論理と事情~濫読日記


「戦争記憶の政治学 韓国軍によるベトナム人戦時虐殺問題と和解への道」
(伊藤正子著)

 1-16-2014_002.JPG「戦争記憶の政治学」は平凡社刊。定価2800円(税別)。初版第1刷は201310月9日。著者の伊藤正子さんは1964年広島市生まれ。1988年東京大文学部卒。2003年博士(学術)取得。2006年、京都大大学院アジア・アフリカ地域研究研究科准教授。ベトナム史専攻。 












 記憶に残る一冊がある。米オハイオ州の地方紙が2003年、米軍犯罪捜査司令部(CID)の隠された調書を暴きだし、ベトナムで1967年にあった数百人もの住民殺戮を追った記録「人間と戦争の記録 タイガーフォース」(WAVE出版、2007年)である。陸軍捜査官が、ある「ベトナムの勇者」の自宅を訪れるところから始まる。事件から8年、既に勇者は廃人同様と化していた。戦場では殺す側も殺される側も、残った傷が大きいことを、強烈に訴えている。

 本多勝一「ベトナム戦争」(すずさわ書店、1973年)は「有史以来」の海外出兵をした韓国軍「猛虎師団」の戦場での活動にも触れている。そこにあるのは「総じて規律がきびしく、兵卒たちは非常にまじめ」という彼らの顔つきである。

 しかし、戦場ではこのような表情の下にも隠されたもう一つの顔が潜む。それを教えてくれるのが「戦争記憶の政治学」である。ここには大きく二つの柱がある。一つは、日本による植民地支配をはじめ数々の「被害」の歴史を持つ韓国民がベトナム戦争参戦、住民虐殺という「加害」の側面を持ったという歴史的事実が明らかにされたとこと。もう一つは、この問題の被害者であるベトナムの複雑な受け止めである。

 ソウルのハンギョレ新聞本社が2000年、ベトナム参戦軍人ら2400人に襲われ、破壊活動を受けた。同社が発行する週刊誌「ハンギョレ21」が、韓国軍によるベトナムでの虐殺行為を検証し、ベトナムへの謝罪を呼び掛けるキャンペーンをしたためだ。キャンペーンは韓国民主化の流れを受けた進歩層には受け入れられたが保守層の激しい反発を呼び、韓国世論は二分される。

 一方、ベトナム政府はベトナム戦争後「過去にフタをする」という方針をとる。背景として、民衆は南北に分かれて戦争に向き合ったため、一筋縄でいかない戦後感情があること。もう一つは戦争責任を追及するより経済復興のため外国からの支援=外交関係の維持を優先させた政府方針があったことがあげられる。

 これらの事実を、現地でのインタビューなどをまじえ、丹念に掘り起こす。「戦争への対処」だけでなく、二つの国の「いま」が分かる好著である。著者はなぜこのテーマに取り組んだか。事実を直視し真の和解を探るべきだ、という著者の視野には、むろん「日本の戦争責任への取り組み」に対する批判がある。

戦争記憶の政治学: 韓国軍によるベトナム人戦時虐殺問題と和解への道

戦争記憶の政治学: 韓国軍によるベトナム人戦時虐殺問題と和解への道

  • 作者: 伊藤 正子
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2013/10/11
  • メディア: 単行本




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