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「デモ」の新しい概念を探る [濫読日記]

「デモ」の新しい概念を探る


「社会を変えるには」小熊英二著


 

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「社会を変えるには」は講談社現代新書。1300円(税別)。初版第1刷は2012820日。著者の小熊英二氏は1962年生まれ。出版社、東京大大学院を経て慶応大教授。著書に「1968」「私たちはいまどこにいるのか―小熊英二時評集」など多数。













 「デモ」という言葉には、さまざまな既成概念がこびりついている。だからデモという呼び方そのものを変えようという動きもある。しかし、デモという言葉についたイメージは、背後にある社会運動の概念と結びついたものだから、デモを「パレード」と言い換えてみてもさしたる意味はない。例えば「民主」とか「平和」とか、いまだに使われているこれらの言葉から見直していかなければ、運動=デモの新しい展望は開けないだろう(念のため言っておけば、民主や平和は普通名詞ではなく、党派性に縁取られた言葉である)。

 小熊英二はそこで、社会運動そのものを概括的に振り返ることで「デモ」の新しい概念を生みだそうとしている。

 この本には、大きく分けて四つの構成要素がある。まず、日本社会の位置・位相はどのようなものか。次に、それを受けて社会変革運動はどのような位置・位相にあったか。さらにギリシア以来の民主主義思想の概括。それらを受けて、社会を変えるための著者の提言がある。

 一言で言ってしまうのは危険だが、あえてそれをすれば、日本社会の現在地点は工業化社会から脱工業化社会へ、つまり、垂直統合的な社会構造から水平的ネットワークへ、ということになろうか。こうした構造的変化は、当然社会運動にも影響する。例えば60年安保とその直前の原水爆禁止署名運動(杉並に始まり、2000万人分を集めたとされる)は自治会や労組といった既成組織が動員された結果であった。70年安保は過渡期にあたり、大学の反乱では既成組織の運動(セクト)と個人の自由参加による全共闘運動が混在した。べ平連はかなり新しい運動論を持っていたと思われるが、そのまま社会に根付くところまではいかなかった。

 「1968」という大部の著書を持つ筆者としては、以上のような観点に、大きなエネルギーを裂いているように思う。たしかに、社会運動はだれが、どのように、どんなテーマで担ったか、について大枠では異論はない。しかし、例えば全共闘運動が来たるべき「高度経済成長への戸惑い」とする観点で語られるのには異議がある。70年は戦後社会の構造的分岐点として認識されたのであり、いま振り返ってみても、道は一本道ではなかった。「戦後民主主義=虚妄」論は確かにあり、そのうえで全共闘運動は近代合理主義への異議申し立てであったとする観点があってもいい。

 分かりやすく言えば、例えば全共闘運動の中で橋川文三の「近代浪漫派批判序説」や桶谷秀昭の「近代の奈落」さらには谷川雁の詩の集積が語られ、東大全共闘と三島由紀夫の討論があったという事実が観点として抜け落ちている。今日の脱原発運動に沿って言えば、例えばダム建設に抗して13年間、国と拮抗した老人を描く松下竜一「砦に拠る」などはどう位置付けられるのか。これらを踏まえると、「急激な先進国化」が進んだことからくる「保守性」という一行で全共闘運動は語られるべきなのか。

「豊かさへの戸惑い」ととらえれば、豊かさへの意識が国民に一定の均一性を持って受け入れられれば解決する問題、という視点が根底にある。そうだったのか。

 さて、「社会を変えるには」である。ここでの理論的筋道は、何を変えるか→脱工業化社会の「国体」の欠如→再帰性の増大→「われわれ」の欠如=新たな「格差意識」→居場所のなさと社会に反映されない「私」―ということになろうか。ここでまず、行動と表現(対話と参加)による「われわれ」の獲得が語られる。そのための格好のテーマは「原発」ではないかというのが、著者の見立てである。

 民主主義とは「合意」に基づく権力の形成であり、自由主義とはもともと相反する。さらに、民主主義的権力形成過程に代議制を取り入れた場合、一定の限界が生じるというのはそのとおりであり、直接民主主義=対話と公開をどう社会的に取り入れるか、が現代社会の課題だという著者の視点に異議はない。ただ、その具体的な道筋に言及がないのが惜しまれる。


 最後に、蛇足として付け加えれば、筆者自身が書いているように、この本は「デモ」と同じく(思想的な意味で)立ち止まって読むべき本ではなく歩きながら読む本であろう。

社会を変えるには (講談社現代新書)

社会を変えるには (講談社現代新書)

  • 作者: 小熊 英二
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2012/08/17
  • メディア: 新書



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