隠し味満載の西部劇~映画「ジャンゴ 繋がれざる者」 [映画時評]
隠し味満載の西部劇~映画「ジャンゴ 繋がれざる者」
A タランティーノが、西部劇を撮った。
B しかし、アメリカの正統派西部劇ではなく、マカロニ・ウェスタンをベースにして舞台は西部ではなく南部という手の込みようだ。
C いきなりかつての「ジャンゴ」のテーマが流れる。フランコ・ネロ主演の「続・荒野の用心棒」の主題歌だった。
A 1960年代の映画だね。懐かしいなあ。冒頭の棺桶を引きずるシーンは今でも覚えている。
B クリント・イーストウッド主演の「荒野の用心棒」がマカロニ・ウェスタンの幕開けになった。そのヒットにあやかって「続…」という邦題になったが、原題は「ジャンゴ」だった。
C 主題歌はどこか演歌調で、元のものとは違っていたような…。そう言えば、赤字の肉太のタイトルは、完全に「仁義なき戦い」のノリだな。
B フランコ・ネロがチョイ役で出ていた所など、にやりとさせられる。タランティーノも出ていたが。
C ストーリーに入ろう。
B 南北戦争が始まる2年前、黒人奴隷ジャンゴ(ジェイミー・フォックス)は賞金稼ぎの元歯科医キング・シュルツ(クリストフ・ヴァルツ)に買われ、自由の身になって賞金稼ぎの道を歩み始める…。
A 「イングロリアス・バスターズ」で冷酷非道なナチ将校だったヴァルツは、またも達者な演技を見せる。
C ジャンゴは別れた妻を探して、キャンディ農園に向かう。
B 農園主カルビン・キャンディを演じるレオナルド・デカプリオの悪役ぶりがすごい。「タイタニック」の二枚目ぶりなど吹き飛んでしまった。
C キャンディ農園の執事スティーブンを演じるサミュエル・L・ジャクソンも存在感がある。いわば奴隷頭のような役回り。
A 彼は当初、主役に想定されたという説もある。
B あとはすさまじい銃撃戦。
A 「続・荒野の用心棒」でも残酷なシーンが多く物議を醸したが、それを上回るような…。
C そういえば、最後の爆破シーンはダイナマイトによるものだが、当時ダイナマイトはまだ発明されていなかったらしい。
A まあ、そんなことを言えば南部を舞台にしていながらなぜ雪山のシーンが出てくるんだ、とか、ジャンゴはスノーシューをはいているがそんなものは当時あったのか、とか、言いだせばきりがない。
B 南北戦争前に黒人のガンマンがいたという想定自体、考えられないことだが刺激的な舞台設定ではある。そこがタランティーノのタランティーノたるところだ。
C ゴールドラッシュの後、米国西部に人が殺到したのは南北戦争とほぼ同時期だから、実際には西部劇の時代に黒人ガンマンがいても不思議ではない。
A つまり、南北戦争の前という設定が絶妙。このあたりは面白いね。
B シュルツがキャンディの館でくつろいでいると、後ろからハープ演奏の「エリーゼのために」が流れてきて「ベートーベンはやめてくれ」というシーン、にやりとさせられる。
C 「イングロリアス・バスターズ」だよね。ヴァルツ演じるナチ将校がサイドカーで現れるシーン、「エリーゼのために」が妙に似あっていた。
A そんな隠し味が満載の映画だ。しかし、それだけじゃない。ストーリーの設定、セリフ回し、事実とは少し変えているのに妙な現実味がある。
B 南北戦争の直前、南部に黒人ガンマンがいたら…という着想自体がすごい。
<参考>
南北戦争 1861~65年
ゴールドラッシュ 1848~
西部劇の時代 およそ1860~1890年
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