SSブログ

「戦後処理」の過程は一読の価値あり~濫読日記 [濫読日記]

「戦後処理」の過程は一読の価値あり~濫読日記


「戦後史の正体 1945-2012」(孫崎享著)

 

 戦後史の正体_001.JPG 「戦後史の正体」は創元社刊。1500円(税別)。初版第1刷は2012年8月10日。孫崎享(まごさき・うける)は1943年、旧満州(中国東北部)生まれ。1966年、東京大法学部中退、外務省入省。国際情報局長、駐イラン大使などを経て2009年まで防衛大教授。著書に「日米同盟の正体―迷走する安全保障」「日本の国境問題―尖閣・竹島・北方領土」など。












 最近の政治情勢を見ていると顕著な傾向に気づく。反米的な言動をした場合の、岩盤のように揺るぎない抵抗である。最近で最大のものは、鳩山由紀夫首相の「(普天間代替基地は)最低でも県外」発言へのリアクションだった。鳩山はその後「有事駐留論」も展開した。官僚の総すかんを食い、あっという間に退陣を余儀なくされた。後任の菅直人首相も、「反原発」を明らかにしたとたん、人格を含めた総攻撃を浴びて退陣した(福島原発事故への、彼の対応ぶりがそれほど無能ではなかったことが最近、関係者の証言によって明らかになっている=例えば「官邸の100時間」参照)。

 野田佳彦首相はその分、学習をしたのか対米従属路線を貫いている。「対米従属」しかないから野田が首相になった、といったほうが正確かもしれない。おかげで国民的にも党内的にも不人気でありながら、政権の命脈を保っている。しかし、そのつけは明らかに国民に回っている。「脱原発」はまぎれもなく国民大多数の声でありながら、実現の道は遠のくばかりである。オスプレイ配備をめぐっても、沖縄をはじめとする国民の声を聞き、米政権に一言いおうという姿勢は見えない。

 どうやら、霞が関を中心に対米従属の保守派勢力が厳として存在するらしいことが分かってきた。「日米安保マフィア」という言葉もささやかれている。

 終戦から66年。日本人の意識では「戦後」は死語になりつつある。しかし、今の日本は政治、経済体制のみならず、国家の基本である領土でさえ、ヤルタ―ポツダム宣言と、戦艦ミズーリ上で調印された降伏文書、さらに1951年のサンフランシスコ条約によって定められているのである。いわば、この時代に規定された国際的枠組みから、日本はいまだに一歩も前に進んでいないのだ。

 こうした観点で日本の戦後史を編み直したのが、孫崎享「戦後史の正体」である。著者は外務省の元国際情報局長。序章で「高校生でも読める戦後史」とあるが、内容は政治の裏面史にも及んでいてかなりヘビーである。もちろん大人が読んでも面白い。特に、戦後処理―GHQ―サンフランシスコ講和条約に至る記述は一読の価値ありと言っていいだろう。

 前半は対米従属と自主独立の政権のせめぎ合いに重点を置いているが、特に吉田茂と岸信介への見方は興味深い。著者は世間一般の印象とは違って吉田を対米従属派、岸を自主独立派として取り上げている。これはこれでかなり納得のいく戦後史観と思える。

 しかし、全体を見た場合「ストーリー」が先行して、強引と見えなくもない個所がないわけではない。例えば安保闘争への見方。著者は、自主独立派である岸の降板を企んだ米政権が反安保勢力への資金提供によってその目的を達成しようとした(もちろん資金ルートは田中清玄)とするが、多少の疑問もある。

 たしかに、財界などから反安保勢力への資金提供は事実として確認されているが、それが米国による岸打倒のためであったかどうか。国会デモは国民的な高まりを見せて結果として岸退陣を招いたが、そこには樺美智子の死という予期せぬ出来事があったためではないか。樺の死がなければあれほどの大闘争にはなりえず、岸退陣もなかったのではないか。

 終戦から55年体制までで唯一の社会党政権だった片山哲首相誕生について「キリスト教徒であったため」とするが、これも無理がある。その直前、マッカーサーは、自由党総裁であった鳩山一郎政権を忌避した。鳩山をいとも簡単に追放した全能者が「社会主義者」より「キリスト教徒」というファクターを優先させたという説は説得力に乏しく、にわかに賛同しがたい。

 その後の、田中角栄の政権からの追放、田中の流れをくむ小沢一郎への執拗な政治資金攻撃の陰に米側の思惑がある、というのは首肯し得る。特に東京地検特捜部創立にCIAが噛んでいたというのも、もっともな指摘であると思われる。一定の距離を置いて読めば、得るものは多い。

戦後史の正体 (「戦後再発見」双書)

戦後史の正体 (「戦後再発見」双書)

  • 作者: 孫崎 享
  • 出版社/メーカー: 創元社
  • 発売日: 2012/07/24
  • メディア: 単行本



nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0