被爆者と向き合った若者の記録 [映画時評]
被爆者と向き合った若者の記録
~映画「ヒロシマ・ナガサキダウンロード」
30歳の男性二人が、北米大陸をカナダからメキシコまで車で縦断する。延々と広がる大地。彼らはそこで18人の被爆者と会い、経験談を聞く。過酷な体験を経て、原爆投下国である米国とその周辺国に住む人たちにとって、あの日の記憶は意識の最古層に秘められるべき、語られざる出来事であったにちがいない。
このドキュメンタリー作品の監督である竹田信平(撮影は3年前だから、現在33歳)と、彼の高校の同級生・山城猛夫(ロンドンに住み、紛争後の政府の立て直し策を勉強しているという。平和構築学のことであろう)がなぜ、そうした旅を企てたかは明らかではないが、確かにここでは「濃密な時間」(山城)と、魂の触れ合いがある。同時に戸惑いや惧れも感じられる。
ある被爆者は、「すっきりしました。ありがとう」と言って握手を求め、ある被爆者は突然言葉を失い、涙する。そしてインタビューは打ち切られる。偶然出会った米国女性は、腕の小さなタトゥーを見せる。「A」の後に、数字が並ぶ。アウシュビッツの収容所にいた証。彼女は臭覚を失った体験を話す。死体を焼く時の「ものすごいにおい」が記憶としてよみがえったのは収容所を再訪し、鉄条網に電流が流れていないのを確かめたときだったという。
北米大陸に住む被爆者が、重い口を開いて体験を語った記録―ととらえてもいいが、どこかで違っている。これは、苛烈な体験を自らの目と耳で確かめた二人の若者自身のドキュメンタリーである。彼らのフィルターを通して、何が残ったか。
2012-01-28 09:29
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