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雑誌が報じた「原発」と「震災」~濫読日記 [濫読日記]

雑誌が報じた「原発」と「震災」~濫読日記

 「3.11」に始まる事態はなんなのか。重くて深いこのテーマを追うのは容易ではない。月刊誌の展開もようやく緒についたばかりだ。

 そんな中で光るのは「世界」である。「脱原発」にスタンスを決め、内容・構成とも明確である。同誌は1月にも「原発」をテーマとして取り上げた。そのときの助走が今回、5月号の編集に役だったことは容易に推測できる。まず大江健三郎が「あいまいな日本」に言及、核兵器と原発へのあいまいな信頼からの脱却を訴える。読ませるのはやはり、1990年代に浜岡原発をモデルにしながら今日の事態を正確に予測したとされる石橋克彦・神戸大名誉教授の「まさに『原発震災』だ」である。この中である原子力専門家の「石橋論文は保険物理学会、放射線影響学会、原子力学会で取り上げられたことはない」という言葉が紹介されている。まさに権威主義そのものであり、こうした思考法が「原子力」分野の思考停止を生み「フクシマ」につながったことを暗示している。元原子炉製造技術者であった田中三彦氏の「福島第一原発事故はけっして〝想定外〟ではない」もまた、今の原発問題の核心をあぶりだしている。

 先にあげた1月号特集では「ルポルタージュ 原発頼みは一炊の夢か」(葉上太郎)が光る。巨額の電源立地対策費と固定資産税で膨れ上がる予算。いまさら縮小がきかない財政に悲鳴を上げる「原発のまち」の実態は麻薬中毒患者のあえぎを見るかのようだ。高度経済成長の初期に全国各地で見られた「札束でひっぱたく」手法がいまなお使われることに慄然とする。葉上は「世界」のほか「文藝春秋」「中央公論」にも同趣旨の記事を書いている。これら「世界」1月号の関連特集と、石橋氏の「原発震災」(「科学」199710月号)などは岩波書店のホームページで無料公開されている。

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 「世界」に比べると「文藝春秋」は量的にはあるものの、いくつかの記事を除いて内容はとぼしい。光彩を放つのは「『想定外』か?―問われる日本人の想像力」(柳田邦男)。「想定外」という言葉を技術面から3つのケースに腑分けして独自の視点を提示する。「第三の敗戦 A級戦犯は菅直人だ」は、官邸の10日間をおさらいした記事。石原慎太郎、中曽根康弘から瀬戸内寂聴まで「動員力」はさすがだが、原発の未来をどうする、といった視点はとぼしい。ないものねだりかもしれないが。

 たまたまであろうが「官僚が選ぶ最低の大臣と次の総理」は、今に事態に重ね合わせて面白かった。「評価できる総理大臣」でトップが安倍晋三と麻生太郎なのは自民党の古き良き時代への懐古趣味のご愛嬌とも言えるが…。次の総理に最もふさわしい人物として石破茂、というのはさもありなん、という気もする(別段、石破の支持者ではない)。

 2誌に比べて「中央公論」は「羊頭狗肉」という形容詞がもっとも当てはまる内容。とりあえず記事を並べたという感じで、原発を扱った記事に見るべきものはない。出版元が読売系列に入ったせいでもあろうが、むしろ政治関連で多少の読み応えがある。筆頭は石波茂・自民党政調会長に田原総一朗がインタビューした「福島原発は政府による災害だ」だろう。民・自連立のための政策協定は政調会長レベルで1日でまとめる、とか連立は来年度の予算通過後に解散、とか明確だ。ちなみに、文春の官僚アンケートで「次の総理」に推された石破は田原から救国内閣総理をちらつかされて「谷垣総裁以外の選択肢はない」と煙幕を張っている。御厨貴の「『戦後』が終わり、『災後』が始まる」は新聞紙上で既出のため、インパクトがない。読売の橋本五郎、元共同の後藤謙次、東京新聞の長谷川幸洋による鼎談「断崖絶壁の日本人 大震災が政治を問い質す」は御愛嬌といった感じだ。岩波では存在感を見せた石橋克彦氏も「首都圏直下地震、東海・東南海・南海巨大地震の促進も否定できない」となると間口を広げすぎの感がある。地方自治ジャーナリスト葉上太郎は「原発難民」を取り上げ、ここでも読ませる。

 月刊ではないが「AERA」緊急増刊。「27人の提言」と「100人の証言」を特集した。ここまでくると拡散しすぎで何が言いたいのか、と思ってしまう。ここまで読者にげたを預けてしまうと「ズルイ」という感じが否めない。原発を中止すべき、という小出裕章・京都大助教と原発推進派の諸葛宗男・東大特任教授の対談が考えさせられたぐらい。しかし、原発に懐疑的な学者は見事に処遇されていないことが、最近の原発論争でよく分かる。小出氏も1949年生まれで「助教」である。こんなことも「フクシマ」を生んだ背景にあるのでは、とつい思ってしまう。


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