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「映画」という体験~「ヘヴンズストーリー」 [映画時評]

「映画」という体験~「ヘヴンズストーリー」

 「映画を観る」というより、これは「映画を体験する」といったほうがいい。そして「観客が観たがる映画を撮る」というより、「撮りたい映画を撮る」という志が潜む4時間38分。長尺もまた表現のうちなのである。

 人は愛によってつながり合うとは限らない。憎悪によって、復讐心によって、殺意によってつながることもできる。山に棲む魔物がそれぞれの心に降りてくるように。輪廻転生、一殺多生、因果応報なのだ。

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 両親と姉を惨殺された少女サト(寉岡萌希)は容疑者が自殺し、復讐の対象がなくなったことを知る。同じころ妻と子を殺されたトモキ(長谷川朝晴)は犯人の無期懲役判決に怒り、自らの手で罰することをテレビカメラの前で宣言する。そのニュース映像に少女は失禁する。その時からトモキは少女の英雄として心の中に棲み始める。しかしトモキは新しい家庭を持ち、復讐心は少しずつ薄らいでいく。それを知ったサトはトモキのもとに向かう―。

 息子を育てながら殺人の代行をする男、殺人を犯した男と養子縁組をした女性、男に逃げられたまま子を産む女性。殺意と再生が絡み合う。いや、表裏一体で展開する。「百鬼どんどろ」の人形芝居がシーンごとの隙間を埋めていく。認知症女性を演じる山崎ハコがとてもいい。北海道の炭坑跡に建つ荒れたアパート群はこの世の果てを思わせる。全編手持ちカメラ、登場人物20人以上、全9章。まぎれもなくこれはドストエフスキーを彷彿とさせる力業である。ただしこの映画で描かれたものは、惹句にあるような「罪と罰」とは違う。関係性を失った人々の魂の物語だと言ったほうが全体をとらえてしっくりくる。

 必ずしも映像だけに頼らないこのつくり、骨太の構想力は極めて映画的であると同時に極めて小説的でもある、といっていい。昨年のキネ旬3位。監督・瀬々敬久はこの映画によって「鬼才」の称号を手に入れた。

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