SSブログ

市原JOC専務理事は事実を直視すべきだ [社会時評]

市原JOC専務理事は事実を直視すべきだ

 「広島五輪」について「新市長 招致継続を」と見出しのついたインタビュー記事が120日付中国新聞スポーツ面に掲載された。スポーツ面だからスポーツの側面からこの問題を取り上げたのかと思ったら、なんとも薄汚れた政治色の強い記事だった。インタビューされた市原則之JOC専務理事の、事実をきちんと押さえていない発言もひどいが、それを何のチェックもせず記事化する記者もひどい。

 記事で市原氏は「招致検討を取りやめたら、各方面への影響はありますか」という質問に「手を挙げた価値を認識する必要がある」「やめるのは広島の信用に関わる」と述べている。断わっておくが、いま広島市でなされているのはオリンピック招致の「検討」である。あれほどオリンピックにこだわった秋葉忠利広島市長でさえ、多方面から批判を浴びて当初「年内」と期限を切っていた決断を年明けに持ち越さざるを得なかった。つまり「手を挙げる」ことができなかった。これが現段階のありようである。だから広島市は今、招致活動をやめようとやめまいと、とやかく言われる筋合いはないのである。これを「やめるのは広島の信用に関わる」などというのは市民への恫喝に等しい。記者はなぜそのことを突っ込まなかったのだろうか。とても不思議だ。

 続いて市原氏は「地元の議論をどう受け止めていますか」との問いに「市長をめぐる政局絡みの話になっている感があり残念だ」と述べている。「政局絡み」とはどういう意味だろうか。こんなあいまいな表現をそのまま文字にする記者の感覚はとても信じられないが、それにしても発言の真意はまったくつかめない。少なくともこれまで、オリンピック反対の市民の声の中に「秋葉市長辞任要求」を前面に掲げたものがあっただろうか。あったのなら具体的に示してほしい。市民は財政的な不安や政策的な優先度、理念のあいまいさの観点から批判してきたと思っている。

 「市民の賛同が広がっているとは言えません」という記者の問いかけには「市は市民の理解を得るような広報、運動に努めてもらいたい」と答えている。余計なお世話である。市が何をすべきかは、税金を払っている市民が決めることだ。続いて市原氏は「基本計画案はよくできていると思う。金をかけない運営方法や大会後の維持管理に困らないような施設整備など、新しい五輪の在り方を示している」と述べている。市原さん、こんなことをうかつに言っていいのですか。基本計画案はこれまで市民の集中砲火を浴びて火だるまになってきた。それとも、JOCがオリンピック後の、財政も含めたしりぬぐいをするとでもいうのですか。

 この記事では、計画案でもっとも批判が多かった「1000億円寄付」の問題が全く触れられていない。この問題をきちんと分かるように説明しなければ「よくできている」などと言ってはいけない。「1000億円寄付」が実現するかどうかの問題もあるが、自治体がイベントを企画するときに、初めから寄付に頼るやり方が妥当なのかどうか、という問題がある。龍谷大法科大学院の田村和之教授は朝日新聞のインタビューに答えて「地方財政法は、市町村が負担する経費のうち政令に定めるものは直接的・間接的を問わず住民に転嫁してはならない(27条の4)とも規定しています」としている。片山善博総務相は近著「日本を診る」で「そもそも自治体の財政は、当該自治体から行政サービスを受ける個人及び法人が納める税によって賄われるのを原則とする。これを地方自治における負担分任の原則という」としている。自治体の行政が税で賄われることで、納税者はサービスの質を批判でき、あるいは税負担の過重感も感じることもできる。総事業費の4分の1を不確定な寄付金に頼るという基本計画は不健全と言わざるを得ない。市原氏が「基本計画はよくできている」というなら、まずこの問題をきちんとクリアすべきだし、この問題に一言も触れない記者のセンスは疑問だ。

 さらに、屋根のない競技場で8月7日から23日までという競技日程も「よくできている」ことになるのか。1964年の東京オリンピックは10月に開かれた。瀬戸内の「凪」に悩まされながら、なぜお盆をはさんだこの時期に開く必要があるのか。しかも、これまでの市側の説明で、競技を夜間に開くことは不可能なことが判明している【注】。競技は炎天下の昼下がりに、いずれも実施されるのだ。このことも、記者はなぜ突かなかったのか。

 とにかく市原氏は、広島市がいまオリンピックを断念すれば「信用に関わる」し、基本計画案は「よくできている」と言ってしまったのである。いうなれば、広島市が手を挙げさえすればJOCは「フリーパス」だと言ったに等しい。だから一部の人たちは期待の声を挙げる。広島オリンピックはいまや「八百長レース」だということが明らかになったのである。

 市原さん、今からでも遅くはないから、きちんと事実を確認してほしい。広島市民の半分はオリンピックに反対だと言っているのです。総事業費の4分の1を寄付金に頼るなどというのは極めて不健全なことなのです。オリンピック反対を「政局絡み」とはどういう意味ですか。なにはさておき、まずは市民の本当の声を聞かれてはどうですか。

 それから中国新聞の記者さん、こんなJOCの広報のような記事を書いて恥ずかしくはないですか。少しは市民の視線というものを意識してはどうですか。


 【注】基本計画案では、オリンピックへ向けた交通インフラの整備は一切しないことになっている。とすると8万人収容のメーンスタジアムの観客はどのような形で移動するのだろうか。市側はシャトルバス600台余りで対応するとし、所要時間は3時間を見込んでいる。一方で観客の宿泊施設として阪神、福岡など新幹線1時間半圏内のホテルも活用、と説明する。ということは、新幹線の最終便が広島駅を出る時刻の3時間余り前には、すべてのセレモニー、競技は終わっていなければならないことになる。そのリミットは午後7時である。なお付け加えれば、先に書いたようにオリンピックはお盆をはさんで開催される。帰省ラッシュの真っただ中で、観戦に来た外国人たちは阪神、福岡のホテルから新幹線で広島に通うことになる。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0