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おんなたちの「沖縄密約」~濫読日記 [濫読日記]

 おんなたちの「沖縄密約」~濫読日記

「ふたつの嘘」(諸永裕司著)

 二つの嘘_001のコピー.jpg「ふたつの嘘」は講談社刊。1800円(税別)。初版第1刷は20101221日。著者の諸永裕司は1969年生まれ。93年朝日新聞入社。「AERA」編集部、社会部、「週刊朝日」編集部などを経て「アサヒ・コム」編集部。著書に「葬られた夏 追跡 下山事件」。 











 「大状況」と「小状況」という言い回しがある。歴史の歯車が回るような、状況の転換。一方で個人の日常の、ひそやかで濃やかないとなみ。大状況の歯車が回る音は非情であるが、小状況のそれにはいつも「情」がめぐる音がする。このふたつはいつも絡み合い、分離し、人の人生をくるわせる。

 標題となった「ふたつの嘘」とは、この大状況でつかれた嘘と小状況でつかれた嘘のことである。ついたのは国家と、西山太吉という元新聞記者。つかれたのは西山啓子という、ひとりの平凡なおんな。いや、元「平凡なおんな」というべきだろうか。これは非凡な人生である。夫の浮気が世間にさらされる。国家の、必死の機略の中でほんろうされる。一人の記者の歴史的なスクープは、その取材手法をめぐって世間の好奇心の対象へとねじまげられる。ぬけがらのような夫の背中を「最後までしっかり生きてほしい。このままで終わってほしくない」という目で見つめつづけた人生。

 ――それにしても、どうして別れなかったのだろう、と自分でも不思議に思う。いつでも別れられたはずなのに。

 ――神様は耐えられないほどの試練は与えないといいますけど、私にはちょっと重すぎましたね。

 心のひだをなぞるかのような文体が印象的な作品(というほか、適当な言葉が見つからない)である。

 後半は、時間軸にそった「ふたつの嘘」の物語が展開する。かつての密約は、米公文書公開によって白日にさらされた。当時の外務省アメリカ局長、吉野文六もまた密約の存在を認める。判決は西山の全面勝利に終わるが、なお国家はそれを認めようとしない。この、二重の嘘の壁に挑んだひとりの女性弁護士に光を当てる。

 前半に比べると、この後半部分はやや散漫だ。ただ、全編を通して現れる澤地久枝(「妻たちの二・二六事件」という著作がある。もちろん、この事件を追った「密約―外務省機密漏洩事件」もあげておかなければならない)の横顔が、この作品に一本の筋を通している。

 ノンフィクションの貴重な収穫だと思う。同時に「西山の妻」という存在をここまで描ききる力も非情さも、私にはないな、と思い知らされる。


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