手順が違ってはいないか～秋葉市長４選不出馬

手順が違ってはいないか～秋葉市長４選不出馬

　広島市の秋葉忠利市長が４日、任期満了に伴う４月の市長選に出ないことを表明した。市長はこれまで市民世論の激しい反発の中で2020年夏季オリンピック招致検討を強引に推し進めていた。それだけに４選出馬は既定事実と誰もが思っていた。この突然の「不出馬表明」は一体何なのか。

　「オリンピック招致検討」を一昨年10月、長崎市の田上富久市長との共同会見でぶち上げたときも極めて唐突感があったが、今回の不出馬表明も唐突感がある。ここまでくれば、これは「たまたま」ではなく、秋葉忠利という政治家の「性向」ではないかと思われる。それは「いきなり」表明するから唐突なのではなく、一切の手順を無視するところからくる「唐突」感なのである。オリンピック招致検討を言いだしたときも、関係団体への打診や事前協議はいっさいなかったことが現時点までに明らかになっている。今回は、途中まで引かれたレールの先をどうするかが一切ないままの「不出馬」である。常識的にはレールを延ばすための後継者を指名し、あとは民意にゆだねるということもありうるが、いまのところそれもない。はっきりいえば、これは「投げ出し」である。

　もともとオリンピック招致検討は市長が言いださない限りだれも取り上げなかったはずだ。言ってみればこれは秋葉個人の「夢」の実現である。そのことはきちんと自ら認識しておかなければならない。もしそれが分かっているなら、４選断念を表明する前に構想を取り下げる手順を踏まなければおかしい。あいまいなまま「次の市長が決めること」（５日付中国新聞３面）などというのはたわごとであり、市政を私するものと言わざるを得ない。このままでは市の担当者（１日付で２人増となった）はこれまでの業務を続けざるを得ず、貴重な税金が無駄に捨てられていく。何よりも、職員に支払う人件費が無駄ではないか。そしてこの「無駄」について、秋葉忠利は一切の責任を負うことはないのである。

　もう一つ言えば、４日夕の民放の番組で秋葉市長は「石原都知事と同じことを考えている」と話したらしい。これは少し解説が必要だが、つまりこういうことだ。「オリンピック招致構想」を一昨年に広島、長崎市長が表明した直後、石原知事が「例えばマラソンとか広島でやったらいい」とある全国紙のインタビューで答えた。東京、広島が国内候補地を争い、最終的に東京に決まれば部分的に広島開催も考える、というＪＯＣのシナリオがこの時点であったのだ。これに東京、広島の首長が乗ったが、都知事選の行方が不透明になったため、広島が独走することになったのである。秋葉市長はＪＯＣの手のひらの上で踊らされていただけなのだ。そこをきちんとけじめをつけず曖昧にするなら、市民はいい迷惑だ。

　政治家の「出処進退」ということを考える。これは単に辞めどきを考える、という意味ではない。どこまでの責任を負うべきかをきちんと見定め、実践することであるはずだ。そうした観点からすれば今回の秋葉市長がとった言動は、とてもまともな政治家のものとは思えない。翻ってみれば安倍晋三から鳩山由紀夫まで、中央では「政権投げ出し」が恒例行事のように行われてきた。こんなことを地方でまですることはないのだ。

　秋葉市長は昨年暮れ、県営だった広島西飛行場を市営で存続させることを決定した。定期便就航のめどもなく、2012年から始まる広島南道路建設に伴って滑走路かさ上げ工事に40億円が必要になってくる。さらに老朽化した管制塔やターミナルビル整備に50億円必要との報道もある（12月23日付毎日）。この決定はなんだったのか。財界は飛行場の存続を望んでいるかもしれないが、市民はこんなものに巨額の税金を投入することに納得するのか。

　いまの広島市街地を上空から見ると、一等地に広大な空き地が広がっているのが分かるという。広島大本部の移転跡地、ＪＲ広島駅北口の区画整理事業用地（最近やっと動き出した）、広島駅東の新市民球場周辺。これに広島西飛行場を加えてもいいだろう。しかもここは単に「空き地」と言うだけはでない。今後、100億円からの投資が必要になってくる。これらに近々、旧市民球場跡地が加わる。いったい、今の広島に都市計画の明確なコンセプトなどあるのだろうか。

　これに対して、年間数十日も海外出張する市長の「平和偏重」政務と、その結果としてのマグサイサイ賞受賞を受けた会費１万円、出席者900人の12月２日の大パーティー。まさしく、秋葉によって食い散らされた宴の残骸だけが、広島に残るのではないか。せめてそうならないよう、五輪をはじめとする騒動の後始末だけはつけてもらいたい。

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