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日常の中の戦争を穿つ~映画「キャタピラー」 [映画時評]

日常の中の戦争を穿つ~映画「キャタピラー」 


 「キャラピラー」とは「芋虫」。そのタイトル通り、江戸川乱歩の「芋虫」が原作だが、時代背景をがらりと変え、強烈な反戦映画に仕上げた。
 中国戦線へ出兵した夫・黒川久蔵(大西信満)は突然、信じられない姿で帰還する。四肢を失い、顔にはケロイドが生々しい。そんな夫は「軍神」とあがめられる。しかしもはや、妻・シゲ子(寺島しのぶ)の世話がなければ何一つ日常生活を送ることができない体である。ただ食欲と性欲のみが生きているあかしである。

 caterpillar1.jpg

 そんな夫を妻は、いったんは絶望の渕に立ちながらも献身的に支える。芋虫のような体の夫との性も含めて。しかし、武勲を報じる新聞報道や勲章だけが生きがいとなった夫を世話することにいつしかむなしさを覚え始める。一方の夫は、中国戦線で何をしてきたか。四肢を失ったのも戦闘の結果ではなく、数々の凌辱行為の末だった。フラッシュバックのように加害の記憶がよみがえり、苦悩が深まる。
 そうした中での性の行為はグロテスクではあるが、妻・シゲ子の裸体はこのうえなく美しい。複雑で倒錯した心のひだを演じきる寺島の演技に脱帽するばかりだ。戦争は戦った者だけでなく、銃後を支える者たちにも大きな傷を残すというメッセージをこめた、鮮やかな反戦映画といえる。原爆の犯罪性とは一般市民にも耐え難い苦痛を与え、さらに後世までその傷跡を残してしまうところにあると言われるが、実は戦争自体がそのような犯罪性を根源的に持つのだということを、監督の若松孝二は言いたいに違いない。
 そしてストーリーの結末をどう読むか。限りなく暗い物語としてではなく、一抹の「救い」が生まれるエンディングだったと理解したい。シゲ子は終戦の玉音放送とともに、心身とも解放されたのである。

 キャタピラー3.jpg


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クマネズミ

「asa」さん、わざわざコメントをいただき、ありがとうございます。
私のブログは、まとまりが悪くダラダラと書き流しているに過ぎませんが、「戦争は戦った者だけでなく、銃後を支える者たちにも大きな傷を残すというメッセージをこめた、鮮やかな反戦映画」という指摘など、「asa」さんのブログはキチンと核心を掴んでいらっしゃり、素晴らしいと思いました。
これからもよろしくお願いいたします。
by クマネズミ (2010-09-12 14:22) 

asa

≫クマネズミ さん
身に余るお言葉、励みにいたします。
by asa (2010-09-12 20:30) 

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