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ヒロシマの思想とは~月下さんのこと [社会時評]

ヒロシマの思想とは~月下さんのこと 

 5月4日付の地元紙の一面のつくりはこうだった。

 トップに「Peace! 花に願いを FF開幕」、その左肩に「NPT再検討会議開幕」。FF(フラワーフェスティバル)は「実行委員会」が主催する形になっているが、実質的にこの新聞社が主催している。だからこの日の一面トップに「FF」を置いているわけだが、それでいいのか。なぜ「NPT再検討会議」をトップに置くという発想がなかったのだろうか。

 ニュースの優先順位はひとまず置くとしても、「NPT再検討会議開幕」を差し置いて「Peace!」と平和ボケの大見出しを置くセンスは分からない。新聞社としての立場やしがらみ上、優先順位がそうなったとしても、少しはトーンを控えめにする、というのが常識の線だろう。

 もうひとつ聞こえてきそうなのが、「NPT会議自体、限界がある。過大評価はよくない」という声だ。これは、客観的に見てその通りだろう。しかし、それにしてはこの地元紙の扱いは見境がない。

 NPTとは「核拡散防止条約」であり、そのあり方を5年ごとに見直す会議が「再検討会議」である。ということは、この会議の第一の目的は「核を持つ国」と「持たざる国」の峻別であり、その延長線上で「核保有国は核兵器を減らす努力を誠実に実行する」責務を負う、という形になっている。つまりどう見ても「核兵器廃絶」が会議の目的ではないのだ。

 では、そうした性格づけが、この新聞にはあるのか、といえば首をかしげる。第一、この日の一面の脇見出しは「核軍縮の道筋探る」だ。これは会議の本質を伝えていない。社説は「核廃絶の願い 今度こそ」。2面のトップ見出しは「『核と決別』の一歩に」。本当にそう思うのなら、そして会議の性格をこう規定するなら、FFよりも優先的に「NPT再検討会議」のニュースを扱うべきだろう。

 もちろん、被爆者がニューヨークへ行って原爆被害の実相を訴えることが無意味だと言うつもりはない。しかし、そのこととNPT会議で話し合われていることとは、走っているレールが違うのだ。言ってみれば上り線の列車から下り線の列車の乗客に「こちらに乗らないか」と呼びかけているようなもので、どこまで行っても同じ目的地に着くことはない。本当に呼びかけるべきことは「NPT再検討会議の成功」ではなく「核兵器禁止条約の締結」であるはずだ。

 たとえば同じ4日付の朝日新聞を見ると、意識的にかどうかは知らないが、会議の本筋を追った記事では「核兵器廃絶」もしくはそれと同義の言葉を使っていない。NPT会議の記事と被爆者の訴えの記事とでは、トーンを明確に分けているように見える。

 「被爆者の訴え」とやや安易に書いてしまったが、では「被爆者の訴え」とは何だろうか。「ノーモア・ヒバクシャ」がその中身なのか。NPT会議では、長崎の被爆者が「私を最後にしてほしい」と訴えていた。確かに1945年以来「被爆者」はいない(誤解しないでほしいが「被曝者」=第五福竜丸乗組員を含む=はその後もいる)。しかし「戦争被害者=戦死者」は絶えたことがないのだ。この現実をヒバクシャはどのように視野に入れているのだろうか。イラクやアフガンでは今も日常的な殺戮が行われ、オキナワは前線基地であり続けている。こうした「戦争」に対して発言しないヒバクシャとは一体何だろう。

 これはヒバクシャにとどまらず、地元紙についても言える。NPT会議開会のニュースの横で「Peace!」と言う感覚。ここにはアフガンもイラクもオキナワも眼中にない。


 月下さん著書_002.JPG


 広島市で生まれて被爆、今は沖縄に住む月下美紀さん(69)が本を出した。「ヒロシマ五輪」に一貫して反対してきた人である。本といっても手書き文字でつづったA5判145㌻の自費出版。しかしこの中に月下さんの素朴な思いが込められている。

 月下さんは自らの考えの原点を原爆慰霊碑の碑文に置いている。あの「安らかに眠ってください。過ちは繰り返しませぬから」である。「過ち」とは何か。「原爆投下」であるならここでの主語は「米国」になる。そうではないだろう。「過ち」とは「戦争」のことなのだ。

 

 「過ちとは、自ら引き起こした侵略戦争を含め、すべての戦争のことです。

 いつごろから、なぜ核廃絶が一人歩きし、Hiroshimaの願いやこころになっていったのかわかりません(略)」

 「ですから、アフガニスタンに増派をし、核兵器の先制使用を宣言しているオバマ大統領に、オバマジョリティーなる進軍ラッパを広島市民に向けて吹きならす秋葉市長は、被爆地と被爆者を愚弄しているとしかいいようがありません」

 

 求めている平和は「核兵器のない」平和ではなく「戦争のない」平和であるはずだ。そのことが分かっていたらFFで「Peace!」などという見出しが躍るはずはない。そして、月下さんの自費出版をニュースとして扱ったのは見る限り朝日、毎日新聞だった【注】。地元紙ではいまだ目にしていない。

 

 月下さんの著書「Hiroshimaの理想を継ぐために」は市民団体「HEART to HEART」(℡0822995182)で販売。一部千円。

【注】その後、読売新聞が月下さんの出版のことを記事にした。しかし、「平和」の認識を正面から問う記事ではなかった。そうした記事なら、とくに世に問う必要はなかった、と思われる。

 
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H

月下爺さんの事が記事になっていたので、寄らせてもらいました。
爺さん元気そうで何よりです。
by H (2012-01-10 14:43) 

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