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男の嫉妬ほど恐いものはない~舛添新党 [社会時評]

男の嫉妬ほど恐いものはない~舛添新党 

 「政界は欲望と嫉妬の海」という。古くからの言葉だが、そのものずばりのタイトル「欲望と嫉妬の海」【注】を書いた塩田潮は、この書の解題として平成7年秋の自民党総裁選で橋本龍太郎に敗れた小泉純一郎が「政界は嫉妬の海」と漏らしたとする。所属する派閥の三塚博、森喜朗、塩川正十郎ら先輩をさしおき総裁選に名乗りを上げたことで党内、派内から締め付けがあったことを指してのことである。塩田はこう続ける。

 

政治リーダーは、欲望と嫉妬が渦巻く政界という海を泳ぎながら、自身の政治的目標を達成しなければならない。権力欲、名誉欲、地位欲、金銭欲…(略)などに彩られた嫉妬心との闘いは果てしない。

 「欲望も恐いが、嫉妬のほうがもっと厄介だ。政治の世界では男の嫉妬ほど手強いものはない…(略)」

 長い政治経歴を持つ自民党の古参政治家が言う。

 

 政界は欲望と嫉妬と、さらにいえば怨念の海かもしれない。こうした情念のエネルギーが情勢の転換の歯車を回す。そんな世界なのかもしれない。

 少々、品が悪いが、一昔前まで「電波芸者」という呼びかたがあった。さすがに最近では見ない。田原総一朗あたりが発信源かと思うが、定かではない。知識人がテレビで評論をぶち、コメンテーターとして名を売る。そんな行為を指した。田原もそうだが、東京大助教授から転身し、国際政治学者としてテレビに登場した舛添要一も、そうした範ちゅうに入るだろう。知名度を武器に1999年の東京都知事選に出たが石原慎太郎の圧勝を許し、鳩山邦夫にも敗れた。2001年の参院選に比例代表で出て当選。いま2期目にある。

 その舛添が、首相にしたい政治家のトップにいるという。政界はそこまで人材不足なのかとも思うが、これも現実なのだ。国民的人気の一番手にいる政治家が4月23日、新党を旗揚げした。しかし、どうも間が悪い。なぜこのタイミングなのか。届け出た政党名が保護されるリミットが5月2日なのでそれをにらんだ、とされているが、それは技術的な問題だろう。政局の「間」をどうとらえたかが、一連の動きの中で見えてこない。

 新党で連携する顔ぶれも、その必然がよく分からない。比較的知られているのは渡辺秀央、荒井広幸あたりだが、政治家として格別の実績があるわけではない。自民党幹部の言うとおり「落ち武者ばかり」の集団である。「電波芸者」のひそみでいえば、お座敷で割合売れっ子だった芸者の一人が他の芸者たちの嫉妬をかっていづらくなり、お店を持とうとしたがカネもなく、仕方なく場末の地味な店を居抜きで手に入れた―。そんな構図だと思えば、少し納得がいく。

 もうひとつ付け加えると、この芸者には払いきれない借金があったのである。「比例代表による議席」という借金。だから店を出て行かれたやり手ばあさんたちは「借金を払っておくれ」と声を上げる。つまり、議席を返上しろという。ここは自民党に分があるような気がしないでもない。借りた金は返さなければいけない、というのは世間の道理なのだ。そうしないと債権者である国民は、踏み倒されたままで立つ瀬がない。

 舛添を新党に走らせたもの、それは自民党内に渦巻く「売れっ子芸者」への嫉妬だと思える。だからとりあえず構えた新しいお店も、なんともちぐはぐなのだ。店の名前「新党改革」も、「新党を改革」なのか「改革を掲げる新党」なのか、よく分からない。そして何より「何を改革するのか」が見えてこない。古びた店構えのゆえ、ことさらに「新党」と看板を掲げなければならないところが、なんとももの悲しい。

 さて「立ち上がれ」につづいて「創新党」「大阪維新の会」と新党が名乗りを上げている。しかし、参院選へ向けて喧々諤々のムードが盛り上がるかといえば、とても気勢が上がるどころではない。この状況をどう読むか。

 毎日新聞のコラム合戦を見てみる。「近聞遠見」の岩見隆夫と「風知草」の山田孝男。最近では珍しく「風知草」に軍配が上がる。17日付「新キーマン 仙石由人」と19日付「奈落の底へ向かってる」である。風知草の「奈落の―」は戦前のジャーナリスト徳富猪一郎(蘇峰)の「大正政局史論」を引き、鳩山内閣は大隈重信内閣と酷似するという。坂野潤治東大名誉教授によれば、大隈内閣は「人気と実態に大きな隔たりがあり、珍しいほど無定見」だったという。万年与党・政友会の政権たらいまわしを批判して人気を博し登場した。大隈内閣は発足3か月で第一次世界大戦に遭遇し、政権浮揚力を得る。

 戦争による打開という選択肢は今の時代、考えにくい。ではどうするか。「今回は落ちるところまで落ちるしかない」というのが、坂野教授の見立てである。「そこを通って鍛えられて、ようやくデモクラシーだと思うんだよ」

 辛抱するしかないか。それにしても相次ぐ離党で自民党は「カネとブランド」の鳩山邦夫、「政策」の与謝野馨、「人気」の舛添を失った。なんとも「華」がなくなったものである。

 【注】「欲望と嫉妬の海」は学陽書房刊。1800円(税別)。初版第1刷は2000610日。橋本龍太郎、野中広務、小沢一郎ら8人の権力闘争を描く。塩田潮は1946年生まれ。週刊誌記者からノンフィクションライター、評論家。


欲望と嫉妬の海―日本政治・8人の権力闘争

欲望と嫉妬の海―日本政治・8人の権力闘争

  • 作者: 塩田 潮
  • 出版社/メーカー: 学陽書房
  • 発売日: 2000/06
  • メディア: 単行本


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