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「空気」に寄り切られた?~朝青竜引退 [社会時評]

 「空気」に寄り切られた?~朝青竜引退

 *朝青竜引退の理由とは
 *異文化の壁が作り出した異能
 *輿論と世論
 
*小沢一郎の場合

 朝青竜がついに引退した。4
日の相撲協会理事会で解雇を突き付けられ、自主的な引退の道を選んだらしい。当日の朝は本人も親方も「引退」の選択肢は頭になかったのだろうが、急転直下の午後の会見になった。熟慮の末の決断というには程遠い、なにやらあっさりした内容だった。過去を振り返って横綱が涙するところなど、とても心の整理をつけてのこととは思えなかった。
 ところで、理事会が「解雇か引退か」を突き付けた理由は「横綱としての品位、品格に欠ける」点。この「品位、品格」って何? 朝青竜は日本人ではない。まったく違った文化の中で育った。来日して相撲の世界に飛び込み適性、才能があると見込まれた。ここまではよく分かる。そのうえで「品格」を求めるなら、それは言葉と理屈で説明しなくてはならない。「以心伝心」は同じ日本人の話。「品位、品格」とは、いわく言い難い日本人のアイデンティティーを指すのだと思うが、それを外国人に求めたことが間違いだったのではないか。
 力士は文科省の指導を得てトレーニングに励み肉体を作り上げ、土俵上で格闘する。いわば国の管理監督のもとで作られた肉体という武器を持つ。これを一般人に向けて行使すれば、自衛隊員が銃口を一般市民に向けるようなもの。「だから処分する」というのであれば、これはよく分かる。そのかわり事実関係はきちんと解明されなければならない。しかし、その作業が協会理事会で行われたフシはない。一方で「一般人に対する暴行」というあいまいな事実を「横綱としての品格」という回路を通して不明瞭なストーリーに仕立ててしまった。社会的にいえば、これはしてはならないことだろう。あくまで事実に即した判断をすべきだったのだ。
 朝日新聞日付「オピニオン」のページに元横綱の曙太郎が寄稿している。「必要以上に作った『壁』残念」という見出しで、非常に興味深く読んだ。彼は「いざ横綱となった後、どうしたらいいのか、だれを見習ったらいいのか、本当に分からなかった」と書いている。そのうえで「横綱はいつ、だれに見られているかも分からない。そんな中で、朝青竜は周囲と必要以上に『壁』を作ってしまったように見える」と、朝青竜の苦悩に理解を示している。そして自身の体験も踏まえ「不幸だったと思うのは『一人横綱』の状態が長く続いた点」と指摘している。
 「壁」とは何か。朝青竜はあるテレビ局のインタビューで「品格とは」と問われ、しばらく考えて「人生、人に合わす必要はないと思うんだよね」と語っている。さらに「周囲から色々言われているが」とつっこまれて「いいんだよね。オレ的には」と答えている。朝青竜は史上最長、21場所を「一人横綱」として踏ん張った。3年半という長い期間、相撲協会は朝青竜という一枚看板に託したのだ。先の曙も「(一人横綱の)重圧は務めた人間じゃないと分からない」と言っている。
 考えてみれば朝青竜という外国人力士(彼にとってのもう一つの不幸は、琴欧州などと違って外見が日本人にしか見えなかった点だ)に「国技」(その呼び方の根拠はよくわからない。国技館でやるから国技なのか)の行方を託し、えも言われぬ日本人のアイデンティティーの体現者であることを求め、その果てに朝青竜は心の内側に壁をつくり、言い換えれば内面の外側をトゲとヨロイで覆い、その結果として「オレの生き場所は土俵にしかない」と思わせたのではないか。極論すると、朝青竜がもし日本文化にすんなりなじんでいたら、優勝25回という記録もなかったに違いない。精神的な飢餓感が一人の力士の異能を育てたのだ。
 朝青竜はまぎれもなく大横綱である。そしてそれは、国技と言いながら日本人力士が4年間も優勝実績がないという環境の中で生まれた、矛盾に満ちた大横綱だった。
 スポーツ評論家の二宮清純があるテレビ番組で「理事会は世論に押されたのではないか」という趣旨の発言をしていた。そのとき彼は「世論(せろん)」と言ったのだがすぐに局のアナウンサーが「世論(よろん)」と言い直していた。二宮の頭の中には「世論=空気」の構図があったはずだ。いうまでもなく「輿論と世論」(佐藤卓己著)のひそみによる。この書で佐藤は輿論(オピニオン)と世論(空気)の使い分けの歴史を解読している。本来、輿論は「主張」であり、輿論こそが世の中を動かす力となるべきだが、往々にして世論(せろん=空気)が世の中を支配する、としている。二宮は、空気としての世論と言いたかったはずなのだ。
 結局のところ相撲文化のアイデンティティーは強調されたが、朝青竜自身のアイデンティティーは解明されないまま、終わった。朝青竜を土俵の外に追い出したものは「輿論」でなく「世論=空気」だったという思いが強い。
 同じ4日にはもう一人の「嫌われ者だが気になる存在」小沢一郎・民主党幹事長の処分も決まった。「嫌疑不十分」につき「不起訴」となった。さて、このまま逃げおおせることができるか。検察の手からは一応逃れたとしても「世論=空気」という次なるモンスターがいる。 


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