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とにかく薬師丸がいい~映画「今度は愛妻家」 [映画時評]

 とにかく薬師丸がいい~映画「今度は愛妻家」

 優しさはうっとうしい。優しさを前面に出すとベタな関係になってやりきれない。だから仮面をかぶりたくなる。何枚も。その仮面を一枚ずつはがしていく。まるでラッキョウの皮をむくように。最後に何が残るか。ラッキョウの皮なら、何も残らないけど。
 軽妙なセリフが飛び交う室内劇である。舞台は、ほぼワンシチュエーション。もとは芝居だから、それも当然か【注①】。女性を連れ込んだところに妻が戻り、女性が入ったシャワー室をめぐってドタバタ、というあたりは、映画というよりまったくの演劇仕立て。この辺はもっと映画らしい演出があってもよかったのでは。
 筋書きをここで書いてしまうと、映画を見る楽しみが8割ぐらいなくなってしまう。だから書かないでおこう。かつて売れっ子で今は仕事をしないカメラマン豊川悦司と、その妻薬師丸ひろ子。芸達者な二人が、映画を成り立たせている。特に薬師丸がいい。仕事もせず、妻にも偽悪ぶる豊川との関係を、愛らしさで保ち続けるというシチュエーションの芝居が見事だ。喜劇風だが実は泣かせる人情話。薬師丸の演技と、それをとらえたカメラワーク【注②】は、最近の日本映画の中でも特筆ものだと思う。
 二人を取り巻くのが水川あさみと石橋蓮司。水川は女優の卵を演じるが、いまひとつ。テレビに出すぎのせい?か演技に奥行きがない。おかまを演じる石橋は、まあ石橋ならこの程度は、という無難なレベル。全体として見て損はない映画。自分的には5段階で星4つぐらい(甘いか?)。
 筋立ては、前半で軽妙な展開があり、中盤のやや後ろで仕掛けが判明する。だけどそのあとの展開が長すぎてややかったるい。結末は常識の線だから特別面白いわけではなく、後半の締めをもっとスピーディーにやれば最高の映画になった。
 薬師丸が、「どうして生きているうちに言ってくれなかったの?」というシーンがあるが(筋書きがばれそう)、とにかく夫婦とはそういうものなのね。豊川と薬師丸が井上陽水の「探し物はなんですか♪」(「夢の中へ」)を口ずさむあたりがきいている。もちろん曲名もヒントになっている。

 【注① 】原作は中谷まゆみ。8年前に上演された舞台の戯曲。
 【注② 】カメラは福本淳。柔らかい光の中、薬師丸を豊川がカメラで追うシーンは秀逸で泣かせる。監督は行定勲。 
 
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