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オバマは途方に暮れている~ノーベル平和賞オスロ演説 [社会時評]

オバマは途方に暮れている~ノーベル平和賞オスロ演説 

 *オバマは八方美人
 *「正しい戦争」?
 *なぜ「広島」「長崎」に言及しない
 *結局は暴力装置の肯定

 ノーベル平和賞を受賞したオバマ米大統領のオスロ演説の評判が悪い。
 鳩山由紀夫首相と同じで、オバマ大統領の本質は八方美人だと思っている。今回の演説でもその傾向が如実に表れている。中身を腑分けしてみればすぐわかるが、自身の業績について触れているのはごくわずかだ。それも①キング牧師やマンデラ元南ア大統領らに比べて、成果は極めて小さい②人道組織などで行動する名もなき多くの人たちより、この名誉に値するとはとても言いきれない―と謙虚なものだ。そんなに言うなら断ればよかった。
 そしてその後には抽象的な「戦争と平和」論が延々と続く。で、結局何を言っているかよく分からない。だれもが違和感を持つのは、間違いなく「正しい戦争がある」というくだりだろう。「正しい戦争」? オバマよ、お前もか、と言いたくなる。どう言い張ったって戦争はすべて「悪」だろう。そう言えないのなら、やっぱり平和賞は断るべきだった。「正義」があるなら当然「悪」が存在する。「間違ってはいけない。世界に邪悪は存在する(Evil does exist in the world)」。本当かね。「悪」の実例としてナチを挙げているが、ではベトナムはどうなのだ。あの戦争は正義の戦いだったのか。1983年のグレナダ侵攻はどうなのか。そのほかの南米諸国への軍事力を伴う主権侵害はどうなのか。探せばもっとあるだろう。
 「正しい戦争」とは「米国にとって正しい」戦争の省略形ではないのか。ナチに対する戦争は全体主義国家に対する民主主義国家の戦争であったと冷静、客観的に総括すればすむ。正義と悪の戦いではない。
 大統領はまた、こうも言っている。「一定の条件が満たされる場合にのみ戦争は正当化されるとされた。つまり、最後の手段または自衛として行われ、武力の使用が(目的に)釣り合うものであり…」
 どこかで聞いたような。日本が戦争を始めた時だって同じことを言ったのではないか。「自衛のための戦争」? そうでない戦争があるのだろうか。そして「人道的な見地からの武力行使は正当化できる」。「人道的か、そうでないか」を判断するのはだれなのか。米国ではないのか。これはもう、あの「ブッシュの戦争」と変わりがないではないか。
 オバマ大統領が今回平和賞を受賞することになった大きな理由は4月のプラハ演説である。では、核問題についてどのような認識を明らかにしているか。
 「正しい戦争」のくだりで、このようなことを言っている。「軍隊同士の戦争は、国家間の戦争に取って代わられた。戦闘員と民間人の区別があいまいになる全面戦争である。(略)第2次世界大戦は、戦死した民間人の数が、死亡した兵士の数を上回った戦争だった」。この認識はおそらく正しい。その後はこう続く。「そのような破壊と、核兵器時代の到来で、勝者と敗者双方にとって、さらなる世界大戦を防ぐための機構が必要だということが明らかになった」。これではまるで人ごとではないか。実際に核兵器を使用して「核時代を到来」させ「戦闘員と民間人の区別がない」大量殺りくを行った米国の「最高司令官」として広島・長崎であった事実を歴史的にどう定義づけるかがないのは、意識的に言及を避けているとしか思えない。広島・長崎への原爆投下の意味を明らかにしないまま「米国は世界を維持する仕組み作りで世界をリードした。(略)さまざまな意味で、この努力は成功した」というのは、やっぱり手前みそというほかないだろう。
 オバマ大統領が言うように非暴力主義は理想論ではあっても現実的ではない(「ガンジーやキングは我々を導く北極星」というあたりに八方美人ぶりがよく出ている)。しかし、だからと言って暴力を肯定することにはならないのだ(言っているのは世界の秩序=言い換えれば「アメリカの平和」=を維持するための暴力装置の肯定である)。
 結局、防犯活動にいそしむそこらのお巡りさんに「平和賞を」と言ってしまったノーベル賞選考委員会の頓珍漢ぶりだけが目についてしまうのだ。そしてうっかり賞を受けてしまった大統領の途方に暮れたため息が聞こえてきそうな、オスロ演説ではあった。
 最後にもう一つだけ。「正義の戦争」を戦っている米国だからこそ、沖縄の基地問題でもあれほど高飛車にものが言えるのよね。

 【注】オバマ演説の日本語訳は1212日付朝日新聞「オバマ大統領ノーベル平和賞受賞演説全文」から引用しました。 
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BUN

人間も生物。行けるところまでは行く。行けなくなったら化石になる。人類の英知などは無いわけです。誰だったか忘れたが、誰しも強く正しいリーダーを希望するが幻想に過ぎない。リーダーとはその組織の平均以上ではあり得ない、というわけです。ささやかな楽しみに人生を費やす、これ私です。
by BUN (2009-12-15 23:28) 

asa

BUNさん、広島ピアノさん、ありがとう。
やっぱりオバマは平和賞を受けるべきではなかったと思います。
もし受賞を断っていれば、拍手したいところでした。

by asa (2009-12-16 09:43) 

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